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ソニックマニア2022への出演のため来日したマデオンに話を聞くことができた。10年前、EDM界の寵児として全世界から一躍注目を集めたマデオンだが、2019年11月にリリースされたセカンド・アルバム『グッド・フェイス』で描いていたのはその先だった。それは「GOOD FAITH FOREVER」と題された今回のライヴにも反映されていて、もちろん“Pay No Mind”や“Icarus”、“You’re On”といった初期の楽曲も披露されるのだけど、ライヴの後半、ハイライトを演出していたのは『グッド・フェイス』からの“Miracle”であり、未発表曲の“Gonna Be Good”であり、そして盟友ポーター・ロビンソンとの“Shelter”だった。今後のことを含めて、『グッド・フェイス』以降の彼の考え方について訊いてみた。

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――今回、日本で初めて行ったところはありますか?

「今回の滞在は、前にも来たことがある東京だけなんだ。でもそれまでは見られなかった新しい発見がたくさんあるよ。次に日本に来たときはアートの島、直島に行ってみたいね。今回は見送らないといけないけど。東京でも、新しいことを色々やったよ。東京にいるのが大好きなんだ。すごくインスピレーションになるし、できるだけたくさんのものを身に付けようとしている。今回は神保町に古本を買いに行った。インスピレーションの素になるからね。六本木ヒルズの森アート・ミュージアムにも行った。築地市場に食べにも行ったし、それから……渋谷界隈のクールなところを数ヶ所回ってアルバムを色々買った。僕はヴァイナルや古本が大好きで、そういうものからたくさんのインスピレーションを集めるようにしているんだ。東京ではそんな感じのことをやったよ」

――デビューが2012年と考えると10周年になるんですけど、おめでとうございます。

「ありがとう」

――10年前の自分に、今の自分からひと言アドバイスを送れるとしたらどんな言葉になりますか?

「ええと……常に自由でいること。そして好奇心を持ち続けること。後悔はまったくないし、何とかうまくやってこられたと思うけど、常に自由を選ぶこと、それがいつでも正しい選択になると思う」

――コーチェラ・フェスティヴァルの映像を観たんですけど、今回の来日公演は「GOOD FAITH FOREVER」と題したライヴになると思うんですが、コンセプトはどういうものか教えてください。

「前回日本に来たときは『グッド・フェイス』の最初のバージョンのショウだったんだ。パンデミック中に時間がたっぷりあったから、それをアップデートして『GOOD FAITH FOREVER』という新しいバージョンにした。前回のショウのいいところを残しておきつつ、新しい要素やヴィジュアルをたくさん入れたんだ。コーチェラのバージョンは既に『GOOD FAITH FOREVER』だったから、明日のソニックマニアもそれでやるよ。『GOOD FAITH FOREVER』はクリエイティヴ面で僕史上最高に誇りに思えるショウなんだ。ヴィジュアル性も音楽性もとても高い。イメージを作ったり、ユニークな感情をかき立てたりするのにすごくエネルギーを使ったよ。他のショウでは見られないような感じのものになった。自分のパッションに正直なものを作りたいと思ってね。僕は子供の頃、マジックが大好きでね。シアトリカルに近い面のあるものを作りたかったんだ。壮大なシーンもダンスや音楽を楽しむためだけじゃなくて、いろんな感覚に訴えてくる体験をシェアできるものになっている」

――ヴィジュアル・アーティストでは日本の方も参加されているんですよね?

「そう、シン(Shinichiro Fujita)だね。今一緒にいるよ。このショウを作っているヴィジュアル・チームは僕を含めて5人いるんだ。フランス人の僕、カリフォルニア出身のモリー・ターロウ、それからマイク・クラッジ、オーシャン、シン。それぞれが受けてきた影響や経験を持ち寄っている。シンは日本出身で、建築というカルチャーの幅が広い世界で活躍してきた。日米両方の文化に通じているから、その影響をショウに反映させてくれるんだ。僕もフランスの影響を出しているし、それぞれが独自の持ち味を持ち寄っている。だからこそ、とてもスペシャルなものになっているんだ。視点が1つだけじゃなくて、たくさんの人と文化が一緒になって1つのヴィジョンを作っている。とても誇りに思っているよ」

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――コーチェラ・フェスティヴァルの後に最新シングル“Love You Back”がリリースされた訳ですけど、この曲はあなたにとってどんな位置付けの曲ですか?

「元々はアルバム『グッド・フェイス』に入れたかった曲なんだけど、ヴァースの歌詞をどうすればいいか分からないまま時間切れになってしまったんだ。他はコーラスも含め全部揃っていたんだけど、何かが欠けていた。どんなストーリーを伝えればいいか分からなかったんだ。そこにパンデミックがやってきて、ショウが全部キャンセルになってしまって、自宅で多くの時間を過ごすようになった。それで人間関係とか恋愛とか、そういうパーソナルな生活を送ることができたんだ。それが大きなインスピレーションになって、歌詞を完成させることができた。やっとできたという感じだったよ。最初に曲を書いたときは時期尚早だったんだと思う。完成させるには人生経験が必要だったんだね。それで、人生の中で完成できるだけの経験を得るまで待ったんだ。今、自分の中で、この曲は時空を超えた自分自身との会話のような気がしているよ。書き始めたときと完成させたときの間には本当にたくさんのことがあった。それらが望ましい形でひとつになって、僕の『今の』バージョンがこれを完成させることができたのは嬉しいことだよ」

――ちなみに新型コロナウィルスというのは全世界に影響を与えた訳ですけど、あなたの活動やスケジュールは具体的にどんな影響があったんでしょうか?

「みんなと同じように何もかもキャンセルされてしまったんだ。ライヴ・ミュージックはもう永遠に戻ってこないと思っていた。あまり希望を持っていなかったんだ。当初はね。それで僕の夢が変わった。以前はミュージシャンとして成長して、世界中のアリーナでプレイしたいなんて夢を持っていた。それが突然、僕だけじゃなくて、アーティストが誰ひとりツアーできなくなってしまった。それで僕は別の夢を持つようになった。成長したら、クールで尊敬できるジジイになりたいと思うようになった。それが何を意味するかというと、素晴らしいキャリアを手に入れて、いろんなことを達成したいというのはもちろんだけど、家庭を持って、アートだけじゃなくていろんなことを学んでいきたいと思ったんだ。今までの人生で出会ってきた歳上の人たちを見ていると、彼らは豊かな人生を送っている。好奇心旺盛で、いろいろな知見もあってね。ああいう風になりたい。キャリアを築くだけじゃなくて、いろいろな興味を持って人間らしく生きたい。そして、いろんな意味で愛に満ちた人生を送りたいんだ。そんな訳でパンデミックでは大きなマインドシフトがあったんだ。人間になるためのインスピレーションを得たような感じ。ただのミュージシャンじゃなくてね。でも、それはつまるところ、よりよいミュージシャンになることも意味する。そういう美しいことだと思うよ」

――新型コロナウィルスで最も得た教訓といったら何になりますか?

「そうだなあ……以前ショウをずっとやっていた頃は、ショウの内容が悪いと腹が立ったりしていたんだ。まあ、滅多にないことだったし、大抵はいい感じだったけど、たまにあまりうまくいかないとアンハッピーになっていたんだ。でも、ショウが奪われてしまって、そのうまくいかなかった時まで恋しくなっている自分に気づいた。すべてが恋しかった。あって当たり前のものだなんてもう二度と思わないって自分に誓ったよ。そんなショウもどんな瞬間も、どんな人も大切にしていくんだってね。ライヴというのがいかに脆いものかというのをみんなが思い知ったと思うけど、僕もその場にあるものをもっと丁重にエンジョイしたいと思うようになった。そしてこの世は移りゆくものだということをもっと意識していきたい。そう思うようになってもっと辛抱強くなれた、物事の存在に感謝できるようになったと思いたいね」

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――ぜひ未来のことについてもお聞きしたいんですが、今、作っていてこれから出ていくことになる曲っていうのは、どんな雰囲気を持っていますか? どんなことを考えてあなたが作っているのか、教えてもらうことはできますか?

「今は新曲をいろいろ書き始めているところなんだ。僕の場合、新しいアルバムを作る時は、それまでの自分をある意味拒絶するというか……拒絶とは違うか。ルールみたいなものだね。そして新しい章に入る時にそれまでのルールを捨てるんだ。僕の最新作はR&Bやゴスペルにインスピレーションを受けた部分が大きかったから、とてもソウルフルで、あまりロック的な感じではなかった。今はまったく違う影響を自由に掘り下げることができる気がする。まったく違う時代、アーティスト、サウンドをね。今は日本のヴィンテージ・シンセサイザーにすごく魅了されているんだ。昔のローランドやヤマハのシンセサイザー。(ローランドの)JUPITERやJUNO、(ヤマハの)CS-80とかね。その手のドキュメンタリーもたくさん観ているし、持っている友だちもいるから、時々プレイさせてもらったりして、そういう昔のサウンドを勉強しながら、古いものと新しいものをどう織り交ぜれば新しいサウンドができるか試行錯誤している。過去のノスタルジーを称えながら、未来に進んでいけるようなものを作ろうとしている。今はひとつの章を締めくくって自由になって、特に70、80年代の日本のシンセサイザーにインスピレーションを受けているんだ」

――ちなみに最近刺激を受けているアーティストというのはいますか?

「僕にインスピレーションを与えてくれるアーティストはジャンルを問わずたくさんいるよ。歳上の人たちを再発見したりね。今はデュラン・デュランをよく聴いている。それから新しい人たちだと、例えばザ・ウィークエンドは大好きだし、ハウス・プロデューサーのフレッド・アゲインもすごくいいし、フランスのランペラティフというバンドも好きだな。それから、それから……トロ・イ・モアも好きだし、ザ・1975もすごくクールだと思う。新顔の中ではSGルイスが好きだな。色んな音楽を聴いているよ。古いものもあれば新しいものもある。いつも何かしら発見があるんだ。音楽はそこがいいよね」

――そういう多様な影響も含めて、私自身はあなたのことはあまりEDMと思っていないんですね。

「僕もそう思うよ」

――2010年代後半にEDMというシーンはある程度落ち着いてきて、あなたが『グッド・フェイス』で提示しようとしていたことにシーン全体が近づいてきたと思うんですけど、そういう実感っていうのはありますか?

「EDMがパーティ・ミュージックとしてビッグだった時期があったよね。多くの人がそれまで知らなかったエレクトロニック・サウンドに触れることができて、いいことだったと思う。でも、その定型句的なものは早く飽きられてしまって、代わりにその手のサウンドを他の影響とミックスするための扉が開かれたんだ。僕自身はクラブに行くんじゃなくて、インターネットを通じてエレクトロニック・ミュージックを聴いて育ってきた。なにせ初めて見たDJが自分自身だったんだから。まだ若すぎたからね。つまり、僕はダンス・ミュージックというものを『家で聴く音楽』と認識してきたんだ。だからメロディやヴォーカルといった要素が僕にとっては大切なんだ。僕世代のミュージシャンはエレクトロニック・ミュージックを作りたいと思っても、もっとエモーショナルなものにしたいと思う傾向がある気がする。ソングライターやシンガーみたいな感覚で、伝えたいストーリーがあるんだ。人を踊らせたいという『機能』だけを重視するんじゃなくてね。今は僕の友だちも含め、たくさんのアーティストがそういう意図をミックスしている。いいことだと思うし、人々ももっとそういうアイデアに対して、昔より心がオープンになっていると思うね。すごく自由になっている。昔ほど自分の音楽を説明する必要がなくなってきた気がするし。すごく自由だね。今は自分のテイストに正直なものをやってもみんな理解してくれている。こういういろんなものが入っているサウンドは15年前だったら今ほど理解してもらえなかったんじゃないかな」

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――あなたの世代は音楽シーンに出たときにもうストリーミングが主体となっていた世代ですけども、ストリーミングという流通方法についてはどう思っていますか?

「僕にとっては探索の自由だね。おおむねポジティヴなものだと思う。何もかもワンクリックでアクセスできるから、より良い音楽的教養をより早く得ることができるしね。あるジャンルを学びたいと思ったら、そのジャンルのベストな音楽をすべてその日のうちに学ぶことができる。以前はそういうのがフェーズになっていて、ブリティッシュ・ニュー・ウェイヴばかり聴いていた時期もあったし、日本のシティ・ポップばかり聴いていた時期もあった。アルバムを買うためにお金を貯める時間もいるし、知識を得るのにずっと時間がかかっていたんだ。(ストリーミングは)その反面、気を付けていないと消費しすぎてしまって、記憶に残らないというのもあるけどね。そうすると人生の一部にはならないんだ。で、僕にとっての解決策はというと…ストリーミングで新しい音楽を知る。それを本当に気に入ったら、ヴァイナルを買うんだ(と言ってカシオペアの『Mint Jams』のヴァイナルを手に取って見せる)。毎朝起きるとヴァイナルを1枚引っ張り出してかけるんだ。それをコーヒーを飲みながら聴く。他の時間帯はストリーミングを使うけど、1日の初めに聴く曲はいつもレコード・コレクションからなんだ。それらは僕の記憶に残っているアルバムで、大切にしている。訪れた場所とか、そういう人生の一コマと繋がっているんだ。日本に来てからたくさんアルバムを買ったよ。帰ってこれらをかけたら、音楽だけじゃなくて東京やフェスや、あらゆる記憶が甦ってくるんだ。ストリーミングは気を付けて使わないといけない。音楽を貪りすぎて忘れてしまうかもしれないからね。人生の中でとてもスペシャルな位置づけになっているアルバムや曲というのがあるんだ。それが僕のスタンスだね」

――最初にあなたが「古い本が好き」と言っていたから不思議だなと思っていたんですよね。そういう理由なんですね。

「神保町ですごく素敵な本を買ったんだ。70年代の色の本で、日本とフランスの色を比較したものなんだ(と言って、昔の色見本帳を見せてくれる)。日本人のアーティストがフランスに行って特有の色をピックアップしたらしい。本当に美しくてインスピレーションになるよ。僕は色が大好きだし、古いものを見つけるのも大好きなんだ。古い物には時間を超えたマジックがあるよね。年を重ねるごとに新しいマジックがプラスされて、いっそうインスピレーションをくれる。だから僕は神保町に行ってこういうものを探すんだ」

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――最初に10年前の自分へのアドバイスというのを訊いたんですけど、逆に言うと、10年後になりたい自分の理想像というのは一体どんなものなんですか?

「おおっ……素晴らしい質問だね。僕は……あらゆるものについてもっと知りたい。もっといいテイストになっていたいし、もっといい音楽を作っていたい。よりいい音楽で、より真実を語っていて、より重要な音楽を作っていたい。自分の音楽だけじゃなくて、自分自身の人となりにも誇りを持っていたいね。10年後の僕は……38歳だ。その頃には家族がいるといいな。子供もいたらいい。(家族は)僕にとってある時点で重要なことだと思うから、10年後にはそういう状態になっているといいね。そして、なりたい自分への道を着実に歩んでいるといいなと思う。僕が心からなりたいと思っているのは、アートと愛にあふれた人間なんだ。好奇心にもね。ここ10年で自分の人生はよりよいものになってきていることに気づいたから、これからも他にたくさんのことが向上するといいなと思う。より成熟していて、より心構えがあって、よりクリエイティヴな人になりたい。そうだね、希望を持っているよ。そうなることを望んでいるんだ」

――でも、28歳という年齢になって、だいぶ音楽シーンの中でやりやすくなったんじゃないですか?

「そう、少しはね。始めた頃はまだ16歳で若いというか子供だったから、大人だらけの世界にいるとちょっと怖じ気づいてしまうこともあった。今は自分自身が大人になったし、10~12年この生業をやっていると、自分の意見にもっと自信がついてくるし、安心感も出てくる。そういうのは時間と共に培っていくものなんだろうね。だから、確かにやりやすくなった気がする。でも、新しいチャレンジはいつでも存在しているんだ。世の中は変化するものだから、それらを理解して対応できるようにしないといけないしね。やりやすくなると大変なことも増えてくるけど、全体的には今の方が昔より好きだな。当時より今の自分の方が好きだしね」

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――やっぱり10代のときは大きなプレッシャーというものはあったんでしょうか?

「僕はチームによく守られていたと思う。当時のマネージャーが盾になってくれていたからね。それでもプレッシャーはあった。僕にとって音楽で成功することはものすごく重要なことだった。学校に戻りたくなかったからね。自由になりたかった。音楽をやる前は、自分の前にあった道が悲しく思えていたんだ。学校に行って落第する姿しか思い浮かばなかった。音楽は自由だったけど、同時に怖い物でもあったんだ。長続きするものじゃない、みんな消えてなくなってしまうと思っていたから。ずっと注目されていたしね。今にしてみれば、もっと悪い状況にもなり得たと思うし、プレッシャーももっとあったかもしれないと思うけど、スタッフが僕を守るために素晴らしい仕事をしてくれて、僕が自分らしくやっていられるように、成長できるようにしてくれたんだ。僕のオーディエンスもずっと優しくて、辛抱強くついてきてくれた。ファンのおかげで僕は安全な状態を保ってずっとやってこられたんだと思う。道を誤る可能性もあったかもしれないけど、ベストな形でこられたと思うよ。当時の自分は大変だと思っていたけど、同時に守られている実感があったんだ」

――あと、訊きたいかったのがダフト・パンクのことなんです。彼らが引退したことを知ってどう思いましたか?

「僕はずっとダフト・パンクのファンなんだ。僕にとって今のところ一番重要で、大きな影響を与えてくれたバンドだね。子供の頃からダフト・パンクについては思い出があるんだ。彼らが解散したときは、最後の思い出をくれているような気がした。それで僕が何をやったかというと…解散を知ったときは『ダフト・パンク・デイ』を過ごしたんだ。ロサンゼルスのビーチに行って彼らの音楽を聴いた。初めは涙を流して泣いていた。友だちのポーター・ロビンソンが電話をくれてそれで知ったんだけど、まるで親戚の訃報を告げるような口調だった。ふたりとも困惑していて、それを電話で語り合ったんだ。僕も泣いたし……彼らのことが大好きすぎる気持ちに感激して泣いたり、彼らがあれほどたくさんの音楽を作ってくれたことがハッピーだって思ったりした。それからビーチに行ったんだけど、夜にはDiscordにログインして、ポーターや、彼の兄弟や他の友だちとみんなで映画『インターステラ5555』を観たんだ。20年くらい前に彼らが松本零士と一緒に作ったアニメ映画だよね。その映画をみんなでオンラインで観たんだ。逸話を語り合ったりしてね。今解散のことを思い出すと、その日の楽しい思い出だけが残っているんだ。みんなで彼らの存在を称えたからね。彼らが音楽をやってくれて本当にハッピーだよ。僕にとっては本当に大きな意味を持つ人たちなんだ。ダフト・パンクの解散にまつわる僕の記憶はそんなところだね。とてもポジティヴなものだよ」

――こんなことを訊くと失礼になるかもしれないんですが、ダフト・パンクで一番好きなアルバムといったらどれになるんでしょうか?

「全然失礼なんかじゃないよ! 好きなアルバムは多分『ディスカバリー』だな。でも、最後のアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』も同じくらい好きなんだ。すごく美しいアルバムだと思う。僕世代にとっての、ピンク・フロイドの『狂気』だと思うんだよね。それくらいの大作だと思っているし、すごくリスペクトを持っている。その2作が一番好きだね」

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――これで最後の質問になるんですけど、最後は、フランス出身のアーティストとして、ロシアとウクライナの戦争はどのように見ていますか?

「とても恐ろしいことだし、胸が張り裂けるような思いだよ。僕はもうフランスに住んでいなくてアメリカに住んでいるけど家族はみんなヨーロッパにいるし、同じ大陸で戦争が行われているとわかっているのはすごく怖くなるし、世界の未来がすごく心配になる。打ちのめされているよ。近年は平和がどんなに脆いものであるか、そして自分たちが何を大切にしているかを思い知らされることが多い。すごく難しい状態だけど……希望は持っておくようにしている。自分の信じていることに関して、今後は立ち直る力と労力の両方とも、より必要になってくる気がしているよ。今はいいニュースが届くことをひたすら願っている。何らかの解決策が見いだせることをね。自分の中の純真な部分が、ミラクルが起こる、平和が訪れると信じているけど、今はそう信じ続けることも大変になっているんだ。アメリカとフランスがロシアへの強い非難表明をしていることを誇りに思っている。世界が武力行使に対して一つになって立ち向かうことは大切なことだと思うんだ」

最新アルバム『グッド・ライフ』のストリーミングはこちらから。

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