音楽界から映画界への進出の道は、マドンナやジョン・ボン・ジョヴィなど歌えるからといって演技もできると勘違いされてきたスターによって難しいものとなってしまった。しかし、デヴィッド・ボウイはこの華々しい40年のキャリアの中で、カメラの前にその優雅さとカリスマ性を示し、多様なキャラクターを演じ、クリストファー・ノーランからニコラス・ローグまで様々な監督を相手に『バスキア』や『最後の誘惑』など幅広いジャンルの映画に出演してきた。彼に映画俳優として素晴らしい才能があったとまでは言えないが、少なくとも彼の演じたキャラクターはすべてとても魅力的だった。今回は、デヴィッド・ボウイが挑戦してきた演技の数々を一つ一つ紹介してみる。
『地球に落ちてきた男』(1976)
プロット:地球に墜落した異星人がセックスや酒、テレビに狂ったようにはまっていく。
役柄:デヴィッド・ボウイはトーマス・ジェローム・ニュートン、通称トミーという、この作品のタイトルにもなっている異星人の「男」を演じる。砂漠化した母星を救うべく地球にやってきたトミーは、自分の星の科学技術を売り込んで得た莫大な資金を元手に、母星に水を運搬するための宇宙船を作ろうと画策するが、地球にいる間、彼はホテルの従業員マリー・ルーと危険な恋に落ちてしまう。
ベスト・シーン:パニックを起こすマリー・ルーに対し、トミーが擬装用のコンタクトレンズを外して自らの本当の姿をさらけ出すシーン。有名なこのシーンでは、異星人の姿をしたボウイにかなり驚かされる。
ワースト・シーン:トミーの母星に残る、全身タイツを着た家族の映像のフラッシュバックと、ネイサン・ブライス教授役のリップ・トーンのセックスシーン。この2つはコンタクトレンズなしで見たほうが良い。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「私の星にあなたが来たとしたら、同じことをしたでしょうね」
点数:5点(満点)
『ハンガー』(1983)
プロット:吸血鬼のカップルがニューヨークで、やりたい放題の奔放な生活を送る。
役柄:自分は不死ではあるものの、不老ではないことを知ってしまった吸血鬼、ジョン・ブレイロックをボウイが演じる。急速に老いが始まったことに気づいたジョンは、老化の抑制を依頼すべく、サラ・ロバーツ医師(スーザン・サランドン)の元を訪れる。
ベスト・シーン:ロバーツ医師の診察を待っていたジョンが、その2時間の間に30歳から80歳まで老化してしまうシーン。このシーンにはアメリカの国民健康保険のジョークが織り込まれている。
ワースト・シーン: ジョンが悪魔のような吸血鬼の恋人、ミリアムに対して、絶え間ないシンセ音楽をバックに叫び続けるシーン。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「僕は若い。分かるだろう? 僕はまだ若いんだよ」
点数:4点
『戦場のメリークリスマス』(1983)
プロット:楽しみや娯楽とはかけ離れた、日本軍捕虜収容所でのクリスマスを描く。
役柄:デヴィッド・ボウイ演じるジャック・セリアズ英軍少佐は、トム・コンティ演じるロレンス中佐が収容されている戦争捕虜収容所に入れられる。そこでセリアズは、捕虜の規則や規制に反抗しつつも、収容所の所長と同性愛の関係になってしまう。ボウイが出演した映画『プレステージ』の監督、クリストファー・ノーランは最近、本作をボウイが俳優兼ミュージシャンとしての才能を活かすために「しつらえられた」作品だと称賛している。
ベスト・シーン:セリアズが反抗的な態度で収容所を横切り、残忍な兵士、ヨノイの両頬にキスをするシーン。
ワースト・シーン:なし。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「私の過去は私のものだ」
点数:5点
『ビギナーズ』(1986)
プロット:滑稽な名前を持つ様々な登場人物が、踊りを通じて人種差別をなくそうとする。
役柄:ボウイ演じるヴェンディス・パートナーズは広告会社の重役で、バカな主人公コリンをそそのかして、売れっ子カメラマンに仕立て上げる。
ベスト・シーン:主題歌。
ワースト・シーン:主題歌以外全て。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「私は物じゃなく、夢を売っている」
点数:1点
『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986)
プロット:世界一最低な姉が不注意にも、自分の弟を13時間、現実離れした髪型の男に預けてしまう。
役柄:ボウイ演じる魔王ジャレスは、ジェニファー・コネリー演じる姉サラをエッシャーの絵とマペットの世界に閉じ込める。また、ジャレスはフクロウに変身するこもができる。
ベスト・シーン:デヴィッド・ボウイの魔法のダンスのシーン。もっとも、このシーンはワースト・シーンなのかもしれない…。
ワースト・シーン:至る所にボウイのピチピチのズボンが映るシーン。しかし、このシーンはベスト・シーンなのかもしれない…。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「君の期待通りに生きるのには疲れた」
点数:3点
『バスキア』(1996)
プロット:画家ジャン・ミシェル・バスキアが流星のごとく名声を得ていく様と、それに伴うアンディー・ウォーホルとの友情を描く。
役柄:デヴィッド・ボウイ演じるアンディー・ウォーホルが、ブルックリンのグラフィティ・アーティスト、バスキアを大衆芸術の世界に導く。そして、ウォーホルは名声を掴んだバスキアの唯一無二の親友となる。「15分間の名声」で終わってしまう画家は数多くいるが、そんな厳しい世界でも、ボウイの演じるウォーホルにはどこか心のあたたかさが感じられる。
ベスト・シーン:ウォーホルがバスキアから送られてきたバスキアの髪の形をしたカツラを頭に乗せて、うんざりしたようなため息をつくシーン。
ワースト・シーン:ウォーホルが描いた絵に細い線を勝手に描き足すシーン。しかし、これには意義を唱える人もいるだろう、ウォーホルがそうしたように……。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「クソみたいな絵ではないよ、ジャン、酸化した絵だ」
点数:3点
『プレステージ』(2006)
プロット:いがみ合う2人の奇術師が、どちらのマジックが優れているかを競い合う。
役柄:ボウイは発明家のニコラ・テスラを演じ、ヒュー・ジャックマン演じる奇術師アンジャーに依頼されて、黒猫やシルクハットなど、何でも複製できる他に類のない奇術の装置を発明する。彼の発明品には、取扱説明書が付属されており、そこには「使えば悲劇を生む」とテスラからの不吉な警告文が書かれていた。
ベスト・シーン:ニコラ・テスラが巨大なプラズマ球体から、一糸乱れず歩いて登場するシーン。
ワースト・シーン:動物好きにとっては、テスラが数千ボルトの装置に怖がる猫を入れるシーンがワーストになるだろう。
デヴィッド・ボウイの名台詞:「アンジャーさん、正確な科学というのは正確ではないものですよ」
点数:4点
ここからは、カメオ出演したベスト映画を紹介する。
『ズーランダー』(2001)
デヴィッド・ボウイ自身のカメオ出演作品の中でベストというだけではなく、ほぼ間違いなく、映画史全体のカメオ出演の中で最も優れていると言える。もし低能な男性モデル2人を判定する人間が必要なら、ボウイが適任だろう。
『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)
意外に思うかもしれないが、デヴィッド・ボウイとデヴィッド・リンチのダブル・デヴィッドがコラボレートした映画は本作だけである。2人はテレビシリーズの前日譚である映画版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』でコラボし、ボウイは精神が混乱したような様子でわけのわからない話し方をする、長い間消息不明だった捜査官、フィリップ・ジェフリーズを好演している。
『チーチ&チョン イエロー・パイレーツ』(1983)
伝説によると、グレアム・チャップマンがこの海賊コメディを撮影していたとき、たまたまデヴィッド・ボウイが休暇中だったという。それでボウイは背中にサメのヒレをつけられ、この映画にほんの一瞬だけ登場した。よそ見してたら見逃してしまうほどの時間だ。
『最後の誘惑』(1988)
デヴィッド・ボウイが規律や正常性を擁護している姿は珍しいが、イエス・キリストと対抗関係にあるピラト総督として、救世主を叫ぶいたずらな革命家を演じている。永遠のファッション・アイコンであるボウイは、茶色いローブとガウンの組み合せさえもうまく着こなしている。
『スポンジ・ボブ』(2007)
ボウイは本作で、アトランティスの帝王であり、太古の泡に執着しているロイヤル・大・帝王・サマサマ、通称L.R.Hの声を担当した。『ラビリンス/魔王の迷宮』でもそうだったように、ボウイの脳みそは外に飛び出ていた。ただ今回は、ズボンはピチピチではなかったのだが。
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