AOTY-Hero

こちらが2016年の『NME』が選ぶアルバム・オブ・ザ・イヤーとなる。この50枚の優れたアルバムのカウントダウンは、2016年に起きた大半のことはあまりにもひどかったけれど、音楽は依然として素晴らしかったことを物語っている。

50位 ボン・イヴェール『22、ア・ミリオン』

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ボン・イヴェールの名のもとによるジャスティン・ヴァーノンのサード・アルバムは、耳に慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。ただ、初めは距離感を感じるこのアルバムも、繰り返し聴いているうちに、生まれたての赤ちゃんのように感情的でぬくもりのあるものに思えてくる。生真面目なシンガー・ソング・ライターとしての日々を後にした彼は、このアルバム『22、ア・ミリオン』で今までにないくらい実験的になっている。故障しがちな電子機器を巧みに織り込み、極限までヴォコーダーをかけた声、そしてスティーヴィー・ニックスのサンプリング音源といったすべてを纏め上げ、極めてアメリカンな甘美な音に昇華させている。いまだアメリカーナでもあるが、我々が知っているものとはまったく違う。ゴージャスな、ゴージャスな作品なのだ。


49位 パブリック・アクセス・TV『ネヴァー・イナフ』

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「今のキッズはロックンロールに興味がないってみんな言う」、デビュー・アルバムの5曲目を飾る”End of an Era”でパブリック・アクセス・TVのフロントマン、ジョン・イーザーリーはこんなふうに歌っている。部分的に正しいかもしれないが、本作は強健とまで言えるその楽観さでインディー・シーンを鼓舞しており、控えめな観察とも言える。全員が高校を中退しているこのニューヨーク出身の4人組が魅力的なお茶目さと共に生み出す素晴らしいコーラスの誘惑に抗うことなど不可能に等しい。


48位 ショー・ミー・ザ・ボディ『ボディ・ウォー』

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ビースティ・ボーイズの正統な後継者としてその地位を受け継いだ、ニューヨーク出身の3人組ショー・ミー・ザ・ボディのデビュー・アルバムとなった本作は、ハード・コア・パンク、ボロボロのラップ、そして信じないにせよ、実験的なジャズを融合させたものである。たった30分間のアルバムということもあり、『ボディ・ウォー』は決して聴いていて飽きてくるようなものではない。ただひたすらにその激しさに当てられてもっと聴きたくなる。デス・グリップスから受けたアドバイスをもしに作られた本作は聴きやすいものではない。しかし、もしニューヨークの音を聞きたいのであれば、それもクイーンズの上品に磨き上げられた舗装などではなく、汚い路地の音を聞きたいのであれば、これは正真正銘の音のグーグル・マップとして機能する。


47位 ワイルド・ビースツ『ボーイ・キング』

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通算5枚目のアルバムとなったセクシーな本作について、ベーシストのトム・フレミングは『NME』に「このアルバムは全曲セックスの曲だ」と言い放っている。好色ないたずらっ子であるワイルド・ビースツは長い間、その人目を忍ぶセクシーなソフト・ロックでベッドルームのわたしたちに求愛し、ささやくように歌いながら、もてあそび、わたしたちを少し混乱させ、掻き乱し、当惑させてきた。しかし、今回は新次元だ。もしフィル・コリンズが復帰を果たしていなければ、このアルバムが2016年の”愛を育む”音になっただろう。中心となる歌詞には「乱れてるのが好きだ/きっちりしようなんて考えもするな」、「彼女はそう簡単にはなびかないさ/美しい苦悶」などがある。ゴメン、幻想から目を覚ますために冷たいシャワーを浴びる必要がありそうだ。


46位 サヴェージズ『アドア・ライフ』

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デビュー作となった『サイレンス・ユアセルフ』が我々の関心を惹くためにバンドが最前線まで駆け寄ってくるサウンドだとするなら、本作『アドア・ライフ』は我々の関心をすでに得たバンドのサウンドといえよう。デビュー作に較べてイライラさせるような陰鬱さは控えめになっているが、パンクさは失われていない。本作は怒りと不機嫌さに身を委ねたものではなく、芸術的に洗練された反骨精神と優雅さを兼ね備えたものになっている。音の後ろに隠れるのを止め、サヴェージズは愛と人生、喪失、そして人間であることを祝福している。不安と恐怖、さらに怒りに支配された1年を過ごし、サヴェージズはとある単純でもっともな存在意義に辿り着いた。それは『Love is the answer(愛が答えだ)』というものだ。


45位 カー・シート・ヘッドレスト『ティーンズ・オブ・ディナイアル』

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2010年よりリリースされてきたメランコリックなインディ・ロックによる11枚もの自主制作アルバムに続いて、ウィル・トレドが初めてスタジオでレコーディングを行ったこのアルバムは、昨年リリースの過去作品を再録したコンピレーション『ティーンズ・オブ・スタイル』の骨格に緊迫感と気だるさが幾重にも積み重なった、最も崇高なグランジ・ポップとも言うべき作品となっている。社会という麻薬を熱心に吸い込んできた者のプリズムを通して、超級の長さの楽曲でペイヴメントやヨ・ラ・テンゴ、ガイデッド・バイ・ヴォイシズといったアーティストのサウンドに繋がってみせる『ティーンズ・オブ・ディナイアル』は、カレッジ・アメリカーナと『タイタニック』のようなロマンチックな旅を再起動させたような作品となっている。


44位 ザ・レモン・ツイッグス『ドゥ・ハリウッド』

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ニューヨークのヒックスヴィルからやってきた兄弟、マイケル・ダダリオとブライアン・ダダリオは、ビートルズやクイーンなどの古典的なロック・バンドをインスピレーションとしている。”Haroomata”など、シド・バレットによって書かれたとも思えるほど、彼らは徹底的に“学習”しており、”Those Days Is Comin’ Soon”はザ・ビートルズをさらに自由奔放で実験的にしたように聴こえる。今年10月に彼らは『NME』に次の作品がコンセプト・アルバムになるかもしれないことを明かしているが、本作も、細心の注意を払って作り上げられた、世界で最高のレコード・コレクションを持った2人の物語のように思える。


43位 アノーニ『ホープレスネス』

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実験的なエレクトロニック・ミュージシャンのワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークがプロデュースした『ホープレスネス』だが、2人は、アノーニの聳え立つような断固とした佇まいによる、アルバムの核を担う、萎縮することのない抗議としての音楽を作り上げることを手助けしている。アノーニ名義で初めてリリースされたアルバムにおいて、アントニー・へガティは”Drone Bomb Me”で現代の軍事戦略を、”Climate Change”では気候変動を、”Obama”では内部告発者を罰することを非難している。それに対して、メランコリックで幽霊的な本作のタイトル・トラックでは矛盾するものを生み出している。「I see the hopelessness(絶望だということは分かってる)」と歌いながら、同時に徹底的な精査と並外れた音楽によって、私たちにも希望はあるかもしれないことを示唆している。


42位 ホイットニー『ライト・アポン・ザ・レイク』

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一握りの人々に熱狂的に愛され、多くの人々には知られすらないカルト・アーティストになる運命のミュージシャンがいる。カルト・ヒーローであったスミス・ウェスタンズのメンバー率いるホイットニーと、70年代の王道の楽曲に影響を色濃く受けたカントリー・ポップである本作もそうした運命にある。『ライト・アポン・ザ・レイク』は、今は亡きシンガー・ソングライターのレコーディングを集めたものという体を成すコンセプト・アルバムで、その豊かで刺激的なサウンドは、ニール・ダイヤモンドの音楽を密かに好んでいる人にとってうってつけである。既にお気づきかもしれないが、ニール・ダイヤモンドの歌は野球場で盛大に合唱されるものの、ホイットニーの曲はもっと少ない観客で我慢しなくてはいけないかもしれない。


41位 ソランジュ『ア・シート・アット・ザ・テーブル』

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ビヨンセの妹である彼女はこのネオ・ソウル/R&Bの傑作で、スーパースターの姉に負けないくらいの素晴らしい声の持ち主だということを証明している。ソランジュのサード・アルバムは音楽的にも視覚的にも革命的なものになっている。アメリカの人種問題が不穏な時期に、国内の黒人(ブラック・ライヴス)を誇り高く、そして力強く賞賛している。同時に、ジャズ、ファンク、そして甘く優しいピアノをすべて織り込みながらも決してやり過ぎることのないミックスで、一人の女性であることを気高く宣言している。常に進化を続けるソランジュにとって新たな第一歩となった本作は、今年発表されたアルバムの中でも、政治的に最も重要な作品の一つだと言っても過言ではない。


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