2015年は、ミュージック・シーンを題材にした映画のビッグイヤーとなるだろう。90年代のフレンチ・ハウスの流行とダフト・パンクの誕生と成功を描いた『エデン』がイギリスでも公開されたほか、今年の後半には、ザック・エフロンがアメリカのEDMのDJを演じ、スリルを追求し、自堕落な生活によって人生の挫折を味わう様が描かれる『We Are Your Friends』が公開される。どちらも事実を脚色した作品だが、その核心にはリアルなミュージック・シーンの描写がある。もっとも、世界的に有名な音楽ムーヴメントにインスピレーションを受けて作られた映画はこの2作品だけではない。それでは、1960年代のフォーク、そして1970年代のクラシック・ロックからディスコ、ソウル・ミュージックからパンクまでを描いた、9つの音楽フィクション映画を御紹介する。
さらば青春の光
ザ・フーによる1973年のロック・オペラをもとに、ブラーの“Parklife”にて語り手を担当しているフィル・ダニエルズ演じる、スクーターとドラッグに明け暮れる青年ジミーの生活を描いた伝説的映画となっている。ブライトンで暴力とダンスにふける週末を舞台に、ビーチでの暴動の様子を映し出す。ファッションから音楽、キャストまで、この映画のすべては完璧にモッズ・カルチャーを捉えている。秀逸なサウンドトラックと、はちゃめちゃなキャラクターたちを通して、1960年代半ばの湿った空気を思い起こさせてくれる。
あの頃ペニー・レインと
1970年代初頭、不器用な音楽オタクのティーンエイジャーが、家と学校、そして人生における様々なつまらない事柄から逃げ出し、ロックバンドのツアーに同行する。バカげた話に聞こえるだろ? しかし、これは監督のキャメロン・クロウ自身の体験に基づいており、米『ローリング・ストーン』誌のティーン記者として、ドラッグや放蕩生活の快楽主義的な世界を旅し、覗きみることによって、自分を見つけていく様を描いている。主人公の15歳の少年ウィリアム・ミラーがツアーに同行するバンド、スティルウォーターは架空のものだが、キャメロン・クロウ監督はこのバンドについて、当時彼が出会った色々なグループの要素を合わせた存在なのだと語っている。しかしこの映画のその他の部分に関しては、1970年代のクラシック・ロックの世界を読み解くものであり、著名なジャーナリスト、レスター・バングスがコーヒーショップで尊大な態度をとる様子や、ホテルのエレベーターのシーンで一瞬だけ映るデヴィッド・ボウイ、そしてブラック・サバスやハンブル・パイ、エリック・クラプトン、レッド・ツェッペリン他、数えきれないほどのアーティストへの言及などが散りばめられている。そしてもちろん、映画史で最も印象的なバスでの歌のシーンを忘れてはならない。
シド・アンド・ナンシー
1986年、シド・ヴィシャスの皮を被ったゲイリー・オールドマンと、ヴィシャスのガールフレンド、ナンシー・スパンゲンを演じたクロエ・ウェブによって、パンク界で最も悪名高いカップルがスクリーンに現れた。この映画で中心となっているのは、彼らの絶望的で破壊的な関係性であると言えるが、『ロミオとジュリエット』で美しいヴェローナの通りが必要不可欠であるように、この映画にもロンドンのパンク・シーンの堕落的で暴力的な要素が同じく重要である。その要素に彼らの意志の強さと反体制の精神とを織り交ぜつつ、薄幸な恋人たちの物語を映し出している。
24アワー・パーティ・ピープル
監督のマイケル・ウィンターボトムは、この映画のためにマッドチェスターに入れ込み、ファクトリ・レコーズの代表だったトニー・ウィルソンとジョイ・ディヴィジョンとの結束(ウィンターボトム監督と頻繁にタッグを組むスティーヴ・クーガン演じるトニー・ウィルソンが、レコーディングの契約書を血でしたためる印象的なシーンも含め)から、当時を象徴するナイトクラブ、ハシエンダのオープンまでのトニー・ウィルソンの何十年に渡る数奇な人生を追っている。この映画には、真実とフィクションが奇妙に混在する。セックス・ピストルズの、マンチェスターのレッサー・フリー・トレード・ホールでの伝説的なパフォーマンスの実際の映像は、バズコックスのメンバー、ハワード・デヴォートがウィルソンの妻をトイレで誘惑するフィクションのシーンとミックスされている。しかし、それでも、イギリスの音楽界で最も魅力的で伝説的なムーヴメントへの愛すべきトリビュート映画と言えるだろう。
ラストデイズ
記憶に蘇る、しかし、うっすらヴェールの掛かったカート・コバーンの最期の日々から着想を得た作品だ。ガス・ヴァン・サント監督の過小評価されているインディーズ・フィルムの名作で、内省的でセンシティブなアーティスト、ブレイクがスターダムの重圧、プレッシャー、人間関係の悪化に耐え切れず、崩壊していく悲痛な転落の様を描いている。物語の大半はブレイクの孤独にフォーカスし(音楽業界関係者、レコード会社の重役、ミュージシャンやマネージャー等も出てはくるが)、不安と怒り、自己嫌悪をリアル過ぎるほどに描いており、グランジ・ロックの暗黒の日々を冷淡に切り取った作品と言える。
スウィンガーズ
小さなごく限られた場所での音楽シーンだが、それでもなお音楽シーンであることに変わりはない。『スウィンガーズ』は1990年代半ばの極めてスタイリッシュなスウィング・ダンス・リヴァイヴァルを見事に映像化している。ロサンゼルス東部のレトロなバーやダイナーを舞台に、キャストのジョン・ファヴローが脚本を手がけ(彼はこの後『アイアンマン』と『エルフ~サンタの国からやってきた~』を監督している)、ヴィンス・ヴォーンがザ・ラット・パックを愛する女たらしという役どころで大ブレークした。彼がカッコよく着ているのは1940年代ヴィンテージもので、カリフォルニアの古着屋で調達された。また、髪はヴィクトリー・ロール、装いはティードレスという若きヘザー・グレアムも必見だ。
ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
ほぼ完璧と言えるこの伝記映画は、20世紀の極めて偉大なシンガーの1人であるジョニー・キャッシュの物語を忠実に描くだけではなく、1940年代から1960年代にかけての北米のカントリー・ミュージック・シーンを見事に映し出している。伝説的なカーター・ファミリー、ウェイロン・ジェニングス、ロイ・オービソン、ジェリー・リー・ルイス、さらにサン・レコードのサム・フィリップスやエルヴィス・プレスリーなどの大物が登場人物として勢ぞろいしている。また、カントリー・ミュージックの「聖地」、ナッシュビルのライマン・オーディトリアムでのシーンには心躍らされる。
ラスト・デイズ・オブ・ディスコ
1980年代初頭、マンハッタンのナイトクラブを舞台に、ヤッピーが台頭する中、ニューヨークの活気溢れるディスコ・シーンの最後の日々を過ごすクロエ・セビニーとケイト・ベッキンセールの様子を描いたホイット・スティルマン監督の皮肉に満ちたドラマ作品だ。陶酔を誘うサウンドトラックには、シック、シスター・スレッジ、エイミー・スチュワートがフィーチャーされ、クラブ・セットのシーンではスタジオ54の退廃的なスタイルがきらめくように描かれている。
キャデラック・レコード ~音楽でアメリカを変えた人々の物語~
世界に名立たるチェス・レコードと、このレーベルが大きな役割を果たした1950年代のソウル、ブルース、ジャズによる音楽の革命を描いた感動作。エイドリアン・ブロディが創始者レナード・チェスを演じているが、注目はチャック・ベリー役のモス・デフ、エタ・ジェイムズ役のビヨンセなど、主役以外のキャスト(および超一流のサウンドトラック)だ。
テキスト:ベン・ヒューイット
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