ZACKERY MICHAEL

Photo: ZACKERY MICHAEL

アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーが、彼の大親友と共にスタジオ入りをしたその意味はたった1つ、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツが始動したということだ。

理由はそれぞれだが、お互いに飽き飽きしてしまうのか、それとも創作上の意見の相違なのか、またはドラッグ関係か。バンド仲間は徐々にお互いを嫌悪し、他のバンドに移行していく傾向にある。しかし、今ここにある話はまったく別物である。これは、音楽の制作をするのに磁石のようにぴったりとくっついている二人の親友の話である。「爆発の瞬間を巻き戻して見ているような感じかな」と、アレックス・ターナーは語った。「まさにジョン・レノンが……ポールに出会ったようなものなんだ」

ザ・ラスト・ショウ・パペッツのアレックス・ターナーとマイルズ・ケインの二人は、2008年の『ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメント』以来となるセカンド・アルバム『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』のアルバム発表を前に控え目に振る舞う気配はないようだ。二人ともマイルズ・ケインのロサンゼルスのマンションで腰掛けながら、彼らの隣にいる二羽のオウムよりも雄弁に語ってくれ。ちなみにこのオウムは、マイルズ・ケインのガールフレンドのプレゼントである。彼らはまるでコメディアンのように内輪ジョークを飛ばしたり、お互いの喋りに割って入ったり、素早く完璧にレノンとマッカートニーの声を真似たりしていた。

お互いが何をザ・ラスト・シャドウ・パペッツに持ち込んでいるのかについて真面目な回答を求めると、マイルズ・ケインは「上手いスモーク・サーモンのカナッペさ」と答え、アレックス・ターナーは「それから薔薇の花かな」と答えた。「そしてマジックが起きるんだ」とマイルズ・ケインが締めくくっている。

アレックス・ターナーとマイルズ・ケインの男同士の友情はかれこれ10年になり、音楽業界の中でもかなり長いと言える。彼らは悪趣味だと話題だったお揃いの服を着てランウェイを歩いたり、昨夏には、ザ・ストロークスのハイド・パークでのライヴで、他の観客に混じって二人で向かい合いながら歌い踊る姿もYouTubeにアップされている。彼らは二人とも今やロサンゼルスに居を構えている。ハリウッド・ヒルズでのやりたい放題の夜の噂はインディ・シーンにまで流れていた。アレックス・ターナーのいうところの「もうやんちゃは卒業して夜はテレビでも観ている」というのはちょっと信用できないかもしれない。

彼らはそこまで親しいにもかかわらず、驚くことに最初のアルバムのリリースからセカンド・アルバムの発表まで8年がかかっている。そこにはどんな理由があるのだろうか?という問いには、「前回のは3部作にしたかったんだ」とアレックス・ターナーは説明する。「この2枚目のアルバムの前に2部作目と3部作目を作りたかったんだ」

ということは、次回作のザ・ラスト・シャドウ・パペッツのアルバムはすでに執筆されているということかーー8年も待たなくても良いのだろうか? 「う~ん、まだなんとも言えないよ」とアレックス・ターナーは用心深く答えた。「他の自分たちの仕事も計算に入れなきゃいけないしさ」

彼らには別の顔がある。アークティック・モンキーズは2013年に彼らの代表作とも言える名作『AM』をリリースし、ダブル・プラチナを獲得し、『NME』のアルバム・オブ・ザ・イヤーにも輝いた。その年、マイルズ・ケインはソロ・アルバムをリリースし、アルバム中のトラック“Don’t Forget Who You Are”はトップ10入りを果たしている。また、彼はもう1人のパペッツとしての活動さえしている。マイルズ・ケインは、2013年のグラストンベリー・フェスティバルにてヘッドライナーを務めるアークティック・モンキーズに“505”から2007年リリースの “Favourite Worst Nightmare”まで参加し、また翌年のフィンズベリー・パークで行われたライヴにもサプライズ出演をしており、そこでザ・ラスト・シャドウ・パペッツの“Standing Next To Me”を披露している。

2014年にアークティック・モンキーズがレディング&リーズ・フェスティバルでヘッドライナーを務め終わった後、アレックス・ターナーとマイルズ・ケインは再結成の余裕ができたようだ。「すべてがうまくいった感じだった。彼と無理やりにでもやるつもりだったんだけど、そうする前に彼のほうからやってきた感じだね」と、再結成により関心が強かったのはマイルズ・ケインだと匂わせながら、彼はジョーク交じりに語った。

2作目となる『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』は、2015年の夏にマリブのシャングリ・ラ・スタジオでレコーディングされている。シャングリ・ラ・スタジオはかつてボブ・ディランとザ・バンドが所有していたが、現在はプロデューサーのリック・ルービンのものとなっていう。しかし、彼は人々に自由にスタジオを使わせている。アークティック・モンキーのプロデューサーのジェームス・フォードをドラムに、ストリングスはアーケイド・ファイアのコラボレーターであるオーウェン・パレットを起用している。また新しい顔としては、ベースには、ミニ・マンションズのザック・ドーズを迎えている。アレックス・ターナーは2015年にミニ・マンションズの“Vertigo”にゲスト参加しており、彼とは親しくしている。マイルズ・ケインは「俺たちはとても仲が良くて本当に彼が好きなんだよね」と語っている。「演奏してもらうのは彼しかいないという気がしたんだ」

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オーウェン・パレットがマリブのスタジオに到着した時に、アルバムの方向性を確認するためにバンドのメンバーに、前回はスコット・ウォーカーや多様な顔を持つリー・ヘイゼルウッドにインスパイアされたアルバムとなったが、今回はどうするのかと尋ねた。すると彼らはこう答えたという。「『ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメント』っていうアルバムを聴いたことがあるかい?」。もちろんそれは、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツの紛れもないファースト・アルバムだが、今回はより多くの楽曲から影響を受けた作品となった。アイザック・ヘイズの”Hot Buttered Soul”からポール・ウェラー率いる1980年代のスタイル・カウンシルに至るまで幅広い影響が感じられる。アレックス・ターナーは「今回、俺たちがやっているような方法にはみんな慣れていなかった」と語っている。

「前作は1つだけのことを最終的にやったアルバムだと思うんだよね。スコット・ウォーカーについてたくさん話していて、アルバムもそのオマージュだと分かる作品になった。でも、今回は、僕の頭のなかではファーストほど影響を露骨に出してないと思うんだ。まさにアイザック・ヘイズなんかを少し聴いてたんだけど、そこまで大きくはないよね」マイルズ・ケインはこう続けている。「ファースト・アルバムの時は、すべてが僕らにとって新しかったんだ。初めて発見した感じがあったんだよね。今回は影響を受けたものを払いのけてみた曲たちなんだよ」

方向性の変化は、今年1月に発表されたリード・シングル“Bad Habits”でも明らかだ。この曲は二人が過去にレコーディングしたどの曲よりもパンチが効いているし、マイルズ・ケインは「Should’ve known, little girl, that you’d do me wrong(もし君が僕にヒドイことをするってわかってたら……)」とまくしたてるように歌い上げている。

「1作目とはかなり違った出来だね」とアレックス・ターナーは語る。「でも、変わってない部分もあるんだ」。“Bad Habits”はこのアルバム全体を表しているようには思えない。なぜなら、『ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメント』よりも変化に富み、完成度が高いからだ。このアルバムのハイライトは、オーウェン・パレットが「素晴らしい」と称賛する“Miracle Aligner”で魅せる揺らめくような誘惑、そしてピアノで演奏されるタイトル・トラックだ。「かつてないほど楽曲を進化させたんだ」とマイルズ・ケインは語る。「この曲は本当に特別目立っているし、最も個性的な曲だと思っている」

デヴィド・ボウイの死後まもなくこのアルバムを聴いていると、タイトル・トラックの中で「collar on a diamond dog……(ダイアモンドの犬につけた首輪)」という歌詞があることに気付く。ザ・ラスト・シャドウ・パペッツは、デビュー・シングル“The Age Of The Understatement”のB面でデヴィッド・ボウイの“In the Heat of the Morning”をカヴァーしており、デヴィッド・ボウイ本人も刺激になったと認めている。「とてもうれしいね! 素晴らしくて最高だ」

確かに実に素晴らしい。『エヴリシング・ユーヴ・カム・トゥ・エクスペクト』にはデヴィッド・ボウイの影響が随所に見られる。アレックス・ターナーは次のように指摘する。「彼は、すべてのレコードのDNAの中に存在していると言っても過言ではない。長い期間を経てデヴィッド・ボウイの影響が様々な音楽に取り込まれているんだ」

「彼が亡くなった日は1日中落ち込んでいたよ」とマイルズ・ケインが付け加える。「“Lazarus”のミュージック・ビデオを観たけど、とても辛かった。本当に重苦しい気持ちだったね」

“The Dream Synopsis”にも際立った歌詞が含まれている。「奇妙な風がうなるように吹き抜けるシェフィールド・シティ・センター」の夢をアレックス・ターナーは描いている。LAのロックスターとして仕切り直した彼にとって、シェフィールド時代の2006年のアルバム『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』は遠い過去の思い出なのだろうか? 「いまだに故郷だと思ってるよ」とアレックス・ターナーは話す。「クリスマスには帰ったしね。素晴らしい友人たちがたくさんいるからね」

彼らはアルバムを制作する過程を楽しんだようだ。アレックス・ターナーによると、1日の始まりは朝の水泳で始まる。水泳は短時間で済んでしまうのだが、まるで「休暇」のようだったらしい。1作目をフランス西部でレコーディングした時と同じだ。

オーウェン・パレットも、彼らとのセッションを仕事というよりも仲間とつるんでいるような感覚だったと認めている。「彼らと仕事をしていて最高なのはあの雰囲気と仲間意識だね。とてもわかりやすいんだ。やる気がみなぎっているのを感じる。マイルズは音楽にいつも反射的に反応する。『違う。こんな感じだよ』ってね。アレックスはどちらかというと取りかかるのに時間がかかるタイプだ。みんなで軽く飲んだ後の深夜2時頃になって、彼は『あの曲のあのパートってヘンだよ。こういう風にやった方がいい』とか言い出す。だから、僕はその場でメモを取って翌朝直すんだよ」

アレックス・ターナーとマイルズ・ケインのお楽しみはまだまだ続きそうだ。アルバムをリリースするのとほぼ同時にツアーに繰り出し、4月後半にカリフォルニアで開催されるコーチェラ・フェスティバルに出演し、その後もフェスに出演する。アレックス・ターナーが断言しているが、今のところアークティック・モンキーズの活動予定は立っていない(「まだ何もないね」)そうだが、二人は10年近い関係を続けることに満足しているようだ。ここ数年で彼ら自身はどのように変化したと思っているのだろうか? 「僕たちは大人の男になったんだ」とアレックス・ターナーは語る。「特に昔の写真と今の自分たちを見比べるとね」

二人の最近の写真と言えば、丸刈りにしたマイルズ・ケインと髪を後ろになでつけたアレックス・ターナーがベロアのトラックスーツを身にまとったもので、それは前作で披露したボサボサのヘアスタイルで立ちすくむ姿とはかけ離れている。「わかってるよ。僕たちはビートルズから『ワイルド・スピード』風に変化を遂げた」とアレックス・ターナーは笑う。二人が話す時、立て続けに生まれるジョークが高度すぎて本当か冗談なのか、見分けがつきづらい。例えば、二人は『X-MEN』風の、コミック原作の映画を制作していると話すのが好きだ。「絵コンテ作りの段階なんだ」とアレックス・ターナーが教えてくれた。「ちょっとしたいざこざがあってね。というのも僕はルチャ・リブレみたいなメキシコ・レスラーを登場させたいんだ」とマイルズ・ケインが付け加える。「でもアレックスは『X-MEN』のスタイルを忠実に再現することにこだわっているんだ」

この話は本当だろうか? 誰も知る由はない。真面目な話を聞き出すために、二人に向き合ってもらい、お互いの目を見つめて好きな所を話してもらうことにした。

「こういうの好きだよ。でも、洗いざらい話すことなんてないってわかってるだろ」とアレックス・ターナーは言った。するとマイルズ・ケインが口を開いた「僕はいつでも彼のこと愛してる。僕たちは痛みを我慢しなくちゃいけない。君を愛してるのは君がとても我慢強いからだ」

アレックス、君はどうなんだ?

長い沈黙があった。彼は何か打ち明けてくれるだろうか? 「マイルズの目を見てたら、彼の後頭部に後光が見えたよ」と、ようやくアレックス・ターナーが口を開いた。「マジだ。冗談なんかじゃない。質問に答えようとしたら、後光が射して、彼は今10センチくらい浮いてるよ。空中浮遊してる」

おそらくアレックス・ターナーとマイルズ・ケインが互いに正直になれるのはレコードの中なのだろう。少なくとも今のところ私たちには二人の親密な関係を共有する機会がある。

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