Photo: Ant Soulo

12月に初来日公演を控えたアースギャングのインタヴューをお送りする。今年10月にリリースされた最新アルバム『パーフェクト・ファンタジー』にはファレル・ウィリアムス、デーモン・アルバーン、スヌープ・ドッグ、T-ペイン、リトル・ドラゴンらが参加しているが、そのルールを逸脱したサウンド・メイキングは先進的な才能として多くの注目を集めることとなった。盟友J.I.Dと共に過ごしたアトランタ時代、所属するドリームヴィル・レコーズの創始者であるJ. コールとの出会い、そして、日本のカルチャーから受けた大きな影響について話してもらった。

――2人は地元アトランタの高校で出会い、アースギャングを結成したわけですが、そもそもヒップホップに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

ワウグレート「自分たちはずっとヒップホップが好きだったんだ。俺らはヒップホップを通過した世代の子どもたちで、アウトキャストは親世代が愛していた音楽って感じだった。ヒップホップは俺たちが地球に産まれた時にはすでに30〜40年の歴史があった。けど、自分たちは一緒にのめり込んでいった感じだったね。なぜなら、自分たちは海賊盤に溢れた世代だったからね。ライムワイアとかのソフトで沢山のヒップホップやミックステープなんかをダウンロードしていた。子どもの頃からそんなのを聴いてたんだよ。そして自然とお互いにラップをするようになったんだ。オルーは自分にとって最も古い友人の一人だよ。8年生(日本での中学2年生相当)の時に何人かの友達がいたんだけど、オルーはその中でも1番最初に自分の音楽を録音して学校に持ってきていた。その時『マジか、自分のテープ持ってるんだ』って思ったんだよ」

オルー「ワウグレートが言っている通り、父親や叔父さんなんかが『お前たち、これを聴け。これが俺たちの音楽だ。今の時代の俺たちのストーリーを語っているから、聴かなきゃダメだ』って言ってたんだ。初めてグッディー・モブのCDをもらったのは叔父さんからで、UGKのCDをもらったのは数学の先生、エドワーズ先生からだった。そういう音楽が自分たちに引き継がれてきたんだよ」

――2010年にスピリッジ・ヴィレッジを結成されていますが、J.I.Dの音楽を聞いて2人から彼に声をかけたとのことですよね。彼のどのようなところに惹かれたのでしょうか?また、2人にとってスピリッジ・ヴィレッジはどのような存在ですか?

ワウグレート「それが面白いことに、実はJ.I.Dにも俺たちにも連絡をとってきていた共通の人物がいたんだよ、パットって言うんだけど。パットは大学でエンジニアをしていて、彼は大学に機材を持っていてさ。普通は誰も寮に録音機材を持ってないんだけど、彼はラップトップやマイクなんかをドレッサーに持っていて録音してたんだ。J.I.Dと自分たちは当時授業のスケジュールが違っていたから、J.I.Dが朝に録音して、自分たちが午後に録音したり、またその逆も然りだったり。そんな中、お互いの曲に参加することになったのはパットのおかげなんだ。例えば、余ってしまったヴァースがあれば、パットが『これに参加してみたら?』って提案してくれてさ。『この人は誰なんだろう?』って思いながら、どんどん彼とフューチャリングを重ねていった。そうしてるうちに気づいたんだ、あれはJ.I.Dだったんだって。彼はキャンパスにいた数少ないアトランタ出身の一人だったんだ。そこからは自然な流れで、意図的に一緒に音楽を作り始めたんだ」

――現在所属しているレーベル、ドリームヴィル・レコーズの創始者でもあるJ. コールとの出会いについて教えていただけますか?

ワウグレート「あれはニューヨークのアーバン・プラザでの出来事だった。俺たちはアブ・ソウルのツアーでステージに立っていたんだ。自分たちの出番は早い時間帯で、まだみんなコートを預けたりしている最中で観客は少なかったけど、後半になると大勢のお客さんが集まった。自分たちはステージに立っていて、まさにそれが始まりだったんだ。アブ・ソウルはまだミート&グリートやサウンドチェックなんかをしていて、自分たちがアーバンプラザのステージに立っている時に突然音が止まってしまったんだ。DJが後ろで音を直そうとしている間、観客が『ラップしろ!』『何かやれよ!』って叫び出したんだ。そこで、その時録音していた曲のヴァースを一つラップした。それがちょうど音が戻るまで観客を繋ぎ止めるのに十分だったのさ。その後、観客は狂ったように盛り上がったよ。音楽が戻って、俺たちはその夜のショーをブチかまして終わらせたんだ。それからJ. コールが連絡をくれて、感心したように『お前らがあのプレッシャーの中で動じなかったのが素晴らしかった。ニューヨークの観客はすぐイライラするのに、ちゃんと自分たちの力でやり通したな』って言ってくれた。そこから歴史が始まったんだ」

――2017年に正式にドリームヴィル・レコーズと契約を交わしました。そこから今日に至るまでどのような経験・変化がありましたか?

オルー「え、もうそんなに経ったの?マジか、2017年ってもう7年前だな」

ワウグレート「自分たちは世界をツアーしてきた。プラチナ・ディスクを獲得し、グラミーにもノミネートされた。葬式、結婚式、出産、人生、全ての出来事、あらゆる試練や困難。それらすべてが音楽を通ずるものだったと願っている。俺たちが経験して、学んできたことがあって、それが単なる古いものの繰り返しじゃないってことがみんなにも伝わってほしい」

――『パーフェクト・ファンタジー』は今年リリースされたEP『ロボフォビア』に続く「アースギャングVSジ・アルゴリズム」シリーズの新章という事ですが、改めてこの一連のプロジェクトのコンセプトや込められた想いについて聞かせていただけますか?

オルー「『RIPヒューマン・アート』からはじまって、『ロボフォビア』を経て『パーフェクト・ファンタジー』になったんだ。『RIPヒューマン・アート』は昨年の最初のリリースだった。当時、みんなAIがクリエイティヴィティを奪って、アーティストとしての仕事も奪われてしまうって大騒ぎしてたんだよね。そうなるケースもあるだろうし、その人の創造性が足りなければそうなるだろうなって。『ロボフォビア』では『どこまでが許容範囲か』を試すためにAIを取り入れたんだ。実験的にAIを使ってビデオを作ったんだけど、ファンはそれを本当に嫌がったんだ。そしてそれは当然だと思う。『パーフェクト・ファンタジー』では自分たちの創造性や型にはまらない考え方を、どうにかしてアルゴリズムに注入して、自分たちがやりたいようにやっていく方法を見つけようとしたんだ。金曜日ではなく火曜日にリリースしたり、アルバムを最初から全部出すんじゃなくて、何回かに分けてリリースしたり。日本にも行って、初期のインスピレーションだったアニメ『トゥナミ』の作品に敬意を表したり。ファレル・ウィリアムスとの曲のビデオも日本で撮ったんだ。自分たちの好きなアーティストをアルバムに招いて、ジャンルとか、ラップ・ミュージックであるかとか、その時のトレンドかどうかなんて気にせずに、ただ一緒に音楽を作りたい人たちを選んだんだ。結局、自分たちがやりたいことをやった結果が『パーフェクト・ファンタジー』だと思うよ」

――“U Gotta”に関して、いわゆる“ザ・ファレル・サウンド”なトラックに2人の心地よいラップが乗り、最高にかっこいいフューチャリスティックなダンス・チューンとなっていますね。今回ファレル・ウィリアムスにプロデュースを任せることになった経緯を教えてください。

オルー「彼は、俺たちが参加するかどうかに関係なく、そのトラックを作ることを決めていたんだ。チャド・ヒューゴと会うことも決めていて、まあ彼らがやりたかった事なんだよ。結局すべてが上手くいったけどね。俺らはマイアミで曲を作ったんだ。その時のバイブスはすぐに伝わると思う。マイアミにいて、ちょっと酔っ払ってて、ビタミンB12が血管を駆け巡ってる感じ、分かるだろ? そしたら、ファレルとチャドがあのビートを出してきたんだ。この曲は、創造過程がすごく自由で、フローもフックもヴァースも、すべてにおいて自由に流れていった感じだった。俺らが言ったことは全部実行したんだ、それも心の底から。だから、ダンスソングなのにすごくソウルフルなアプローチになったんだ」

――先ほど、お話にもあった通り、“U Gotta”のミュージック・ビデオを東京で撮影されていますが、撮影はいかがでしたか? 何か面白いストーリーがあれば教えてください。

オルー「撮影は最高にエキサイティングだったよ。一番好きだったパートは最後のパーティー・シーンだね。日本の人たちがすごいダンス・ムーヴを見せてくれたのが最高だった。90年代のヒップホップのファッションを着て、4〜5人の女の子たちがキレッキレで踊っていたんだ。彼らが、自分たちの文化に対する情熱と感謝の気持ちを見せてくれた事が本当にアツいし、それと同じように自分たちが日本まで足を運んで彼らの文化を尊重するということが素晴らしいんだ」

ワウグレート「100%同意だね。こういう時代だからこそ、最も大事なのはお互いをリスペクトして、お互いの文化を讃えることだと思うんだよね。自分たちの文化を囲い込んで、独り占めするんじゃなくてさ。『自分のカルチャーに触れるな』じゃなくて、『自分のカルチャーに触れてくれ、俺もあなたのカルチャーに触れるから』って感じだね」

――デーモン・アルバーンとのフューチャリングに関して、2020年リリースのゴリラズの楽曲“Opium”にアースギャングとして参加し、2022年には彼らの北米ツアーにも参加していますね。彼らとの繋がりはどのように始まったのでしょうか?

オルー「ゴリラズのほうから連絡が来たんだ。確か彼の娘さんが自分たちのライヴに来てくれた時に会ったんだけど、彼女が『お父さん、これが未来だよ。2曲一緒にやった方が良いよ』って言ってくれたみたいで、デーモン・アルバーンからパンデミック中に連絡が来てZoomで話をしたんだ。パンデミックで世界中が閉鎖されていた時に、実際に彼らの顔をZoomで見てるなんて信じられなかったよ」

ワウグレート「デーモン・アルバーンから彼の娘さんがアースギャングのことを気に入ってるって聞いたのを覚えてる。そして、“Opium”はすごく現実離れしたレコーディングだったな。みんなそれぞれ違う場所で録音してたんだ。楽器もみんな別々の場所にいて、みんなが違う場所でレコーディングしていたんだよ」

――アルバム・タイトルにもなっている“Perfect Fantasy ft. Snoop Dogg”ですが、今回のスヌープ・ドッグとのフューチャリングのきっかけについて教えてください。

ワウグレート「この曲は彼のフローにぴったりだったと思う。実はこれはプロジェクト初期の曲の一つで2020年の終わり頃に作ったんだよね。『この曲を本当に盛り上げるには何が必要だろう?』と考えてて、ちょっとしたピンプっぽい雰囲気が欲しかったんだよね。この曲を聴くたびに、制作時からずっとドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』みたいな瞬間を作りたいって思ってたんだ。曲を制作する時に、時々その曲のミュージックビデオを想像しながら作る時があるんだけど、この曲の時も俺とオルーが『刑事スタスキー&ハッチ』のような感じを思い描いていたんだ。ちょっとしたユーモアも交えつつね。で、誰がその世界観にぴったりかなって考えた時にスヌープ・ドッグだなって。自分たちが『刑事スタスキー&ハッチ』になって、ハギー・ベアを呼ぼうってことさ。スヌープ・ドッグはこの曲を完全に支配してくれて、これこそ俺が知っているスヌープ・ドッグで、俺が愛しているスヌープ・ドッグだって思ったよ」

オルー「誰がこの曲をブチかましてくれる? それが俺の頭に浮かぶことだよ。スヌープ・ドッグはこのトラックを完全にブチのめしてくれた。最高だよ」

――作品全体を通して未来的なサウンドが目立つのと同時に、独特の浮遊感がありとても心地良く聞けるアルバムだと感じました。アムバム全体を通してサウンド面で意識した事は何かありますか?

オルー「うん、具体的ではないけどね。俺たちはルールを全部破りたかったんだ。そして思いついた事は何でもやりたかった」

ワウグレート「実際、同じプロデューサーをいくつかの曲で起用しているんだけど、多分それに気付かないと思う。なぜなら、俺たちがプロデューサーたちにも広いレンジで曲を作るように頼んでいるからね。一つのタイプのネイトラのビートとか、ディッシュのビートだけを使ったわけじゃないんだ。ディッシュは“Blacklight”と“Perfect Fantasy”を作ったけど、これらは全然違うサウンドで、違う時代、違う次元のものだよ。これは、同じチームを使いながらも、彼らに幅広いレンジと大きな広がりを持たせることを求めた一例だよ」

――本作は日本の文化やゲームに大きく影響を受けているようですが、2人が思う日本の魅力はどのようなところでしょうか?

オルー「日本では全てのことが考慮されているんだ。人々はベストな決断を考え、それを選んで実行する」

ワウグレート「俺たちも『トゥナミ』のアニメや『ドラゴンボールZ』、『ポケモン』を見て育ったし、日本のビデオゲームで遊んでいたから、文化的な影響は常に存在しているんだ。そして日本の人たちが、彼らのアートやクリエイティヴィティを真剣に捉えているところが大好きだよ」

来日公演詳細

12月5日(木)duo MUSIC EXCHANGE
開場18:00 / 開演19:00
チケット料金:スタンディング8,000円

更なる公演の詳細は以下のサイトでご確認ください。

https://kyodotokyo.com/pr/earthgang2024.html

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