Photo: All pics by Jamie MacMillan

グリアン・チャッテンの声が姿が見える前から聴こえてくる。誰もいないステージに淡い緑のスポットライトが光を落としていて、コードが掻き鳴らされる。フォンテインズD.C.にとってグラストンベリー・フェスティバルでは過去最大規模となったステージが始まる直前、グリアン・チャッテンは拍手と歓声が鳴り止むのを待って、一筋の光に足を踏み入れる。冒頭を飾った“Romance”で彼はお馴染みの地を這うようなヴォーカルを響かせて、喉の痛みにオレンジジュースを流し込むように人を苛立たせる。観客を当惑させることにキャリアを費やしてきた彼らだが、今のグリアン・チャッテンはキルトのブーツに身を包んで、それをやろうとしている。その目はバンドの堂々たる新時代を見据えている。

ダブリン結成の5人組であるフォンテインズD.C.は常に変わっていくことを歌ってきたが、この日は新旧の楽曲が新鮮なエネルギーのうねりと結びついているように感じられる。ここにきてサイバーパンクの衣装を身にまとい、髪を染める予約を入れることにした彼らだが、その音楽はこれまで以上に不遜で、荒々しく、謎めいたものに感じられる。“Starburster”に辿り着く頃にはグリアン・チャッテンは顔を手のひらで拭い、アイライナーを滲ませ、突然のパニック発作を思い出させるこの曲に秘められた怒りと脆さが溢れ出てくる。

2019年に初めてグラストンベリー・フェスティバルに出た時、フォンテインズD.C.はキャンセルになったサム・フェンダーの代わりを務めたり、サプライズ・ライヴを行ったりして、急展開の突然のライヴを何度もこなすことになった。その3年後の2022年には豪華なストリングス・セクションを迎えて、キャリアを羽ばたかさせた『スキンティ・フィア』をほぼ全編演奏している。そして今夜、キャリア全体に及ぶ楽曲はふさわしい重みと色をまとって、ラウドながら内気で不安定だった初期の日々(“Sha Sha Sha”や“Boys In The Better Land”)を経て、近寄り難いほど間違いのないアーティストになった成長の道筋を見せてくれる。

メイポールのようにマイクの周りをスキップしながら、グリアン・チャッテンは息もつかせぬ“Televised Mind”で圧倒して、パーク・ステージを埋め尽くした観客からは「フォンテインズD.C.」コールが湧き起こる。他のメンバーもそんな盛り上がりにさりげなく果敢に応じてみせる。ギタリストのカルロス・オコネルとコナー・カーリーは“Big Shot”や“Nabakov”といった音楽的クライマックスでもひるむことはなく、ドラマーのトム・コールとベーシストのコナー・ディーガンはペースと強度が突然変化するリズム・セクションを乗りこなしていく。

予期せぬ明るい瞬間をもたらしたのは観客だった。炎と煙が空間を埋めるなか、世代ごとのトラウマや現代のアイルランドのディアスポラが抱える問題を歌った“I Love You”のシンガロングが観客を一つにする。感極まり、声が強張るけれど、共通の理解としてあるのは、ここには、この感動的な光景に励まされた多くの年配のファンだけでなく、初めてギター・ミュージックの核心と力強さを体験するティーンエイジャーもいるということだ。

グリアン・チャッテンは相変わらずステージで話をすることはなく、代わりに不屈の沈黙でコミュニケーションを取ってみせる。「でも、自分の中に閃光があるのだとしたら、誰のためのものか君にはもう分かるだろう」と彼が最新シングル“Favourite”で歌う時、それは心をつかまえて離さない。

Setlist

‘Romance’
‘Jackie Down The Line’
‘Televised Mind’
‘Roman Holiday’
‘Big Shot’
‘Chequeless Reckless’
‘A Hero’s Death’
‘Big’
‘Nabokov’
‘How Cold Love Is’
‘A Lucid Dream’
‘Sha Sha Sha’
‘Boys In The Better Land’
‘I Love You’
‘Favourite’
‘Starburster’

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