Photo: Jeremy Neech for Apple Corps

「I know it’s true」とジョン・レノンは“Now And Then”で復元された歯切れの良い澄んだ声で語りかける。「it’s all because of you」ザ・ビートルズにとって最後の新曲というこの曲だが、そのオープニングは世界中が予想だにしなかった、心に染みるふさわしいものとなった。残されたメンバーであるポール・マッカートニーリンゴ・スターが人工知能の助けを借りて、最後の楽曲をリリースすると発表した時、ソーシャル・メディアは賛否両論に分かれた。ロボットがザ・ビートルズを台無しにしてしまうのではないか? 『NME』はそれを確かめるため、アップル・コアのロンドン本社に赴いた。

美術館のようにザ・ビートルズの貴重な品々やゴールドディスクで飾られた廊下を抜け、オフィスへ案内されると、新たに作られたショート・フィルムのドキュメンタリーでプロジェクトが紹介された。「ジョンを失った時、僕らは終わりだと思った」とポール・マッカートニーは語り、生身の人間による再結成が可能だった時代を振り返った後、「でも1994年、驚くべきことに興味深い機会が訪れた」と続けている。その時、オノ・ヨーコはジョン・レノンのデモが収録されたカセットテープを渡し、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスンはそこから可能なものを救い出し、仕上げることになった。

そのうちの2曲、“Real Love”と“Free As A Bird”は『ザ・ビートルズ・アンソロジー』の一部としてリリースされることになった。3曲目はジョン・レノンの声とピアノの録音の質が悪く、復旧させることができなかったとされている。リンゴ・スターが言うように「ジョンがある意味隠れてしまっていた」とのことで、「これでまた3人にとってジョンの不在が明確になってしまった」という。

映画『ロード・オブ・ザ・リング』の監督であるピーター・ジャクソンが『レット・イット・ビー』の制作過程を追った長時間のドキュメンタリーを作ることになるまで、“Now And Then”はお蔵入りすることになった。ピーター・ジャクソンの言う「機械学習」の技術を使うことで、まるで魔法のようにチームは楽器とヴォーカルを分離し、個々の会話に焦点を当てることができるようになり、史上最高のバンドに間近で迫ることができるようになった。ドキュメンタリーで使えるくらいなら、最後の楽曲のためにジョン・レノンの声とピアノを復元するのはまずいことだろうか? ショーン・オノ・レノンはそうは思わなかった。「父は喜んでくれたでしょう。父は録音技術について躊躇しない人だったので」

そして、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターは1994年に試みた要素を使って、新しいパートをレコーディングし、亡きジョージ・ハリスンの新旧の音源を使い、5人目のザ・ビートルズと言われたジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンが「昔、ジャイルズのお父さんがしていたように」ストリングスのアレンジを加えて完成させることとなった。そこに“Here, There And Everywhere”、“Eleanor Rigby”、“Because’”のオリジナル音源のバッキング・ヴォーカルも加えることで、それは「本物のザ・ビートルズの音源」と呼ばれるものになった。それは一体感と再出発への優しい賛歌であり、“Real Love”と“Free As A Bird”よりも完成度が高く、ザ・ビートルズらしさを感じさせてくれる。

過去を現在に甦らせる試みはピーター・ジャクソン監督にとって初となったミュージック・ビデオでも取り入れられており、ジョン・レノンとジョージ・ハリスンは残されたメンバーと一緒に映し出され、長い間忘れられていたイタズラっぽい仕草が甦ることとなっている。まさにタイトルの直訳とも言える“Now And Then”は頑固な原理主義者の心も和ませるだろう。

アップル・コアにいる間、『NME』は『ザ・ビートルズ 1962年~1966年』(赤盤)『ザ・ビートルズ 1967年~1970年』(青盤)のエクスパンデッド・エディションから選りすぐりの楽曲も聴かせてもらったが、ここでも昨年の『リボルバー』スペシャル・エディションと同じく、音を分離するテクノロジーが使われており、“I Saw Her Standing There”はこれまで以上に荒々しくロックで、“Nowhere Man”はベースが歌うようで、“Hey Bulldog”はまさに唸り声を上げるかのようだ。ザ・ビートルズが部屋にいるような、ザ・ビートルズがライヴをやっているようなサウンドになっている。

“Now And Then”はザ・ビートルズのファースト・シングルである“Love Me Do”との両A面シングルとしてリリースされている。それは始まりと終わりであり、“Hello/Goodbye”ということでもある。それは皮肉でも捏造でもなく、心躍る精神的な意味での再結成でもあり、ポップ・ミュージックを永遠に変えることになったバンドの幕を閉じるものでもある。

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