Photos by Zoe McConnell for NME. Dress by Ryan Lo, Sandals by Bottega Veneta, Earrings by Stephen Einhorn

Photo: Photos by Zoe McConnell for NME. Dress by Ryan Lo, Sandals by Bottega Veneta, Earrings by Stephen Einhorn

「クールじゃないものをクールにするのが好きなの」とジャンルを跨ぐオルタナティヴ・ポップの新星であるリナ・サワヤマは自身のアルバム『サワヤマ』について語る。アルバムはR&Bやカントリー、ジョジョやブリトニー・スピアーズといった2000年代ヒット・ソングのテイストをブレンドした起爆力のあるアヴァンギャルド・ポップのコレクションとなっている。そして、エヴァネッセンスも羨む身体を揺らすリフ、コーンの楽曲直系と言える強力なギター・ラインが加わっている。ニュー・メタルの復権である。

アルバムのリリースを数カ月後に控えるなか、私たちはリナ・サワヤマのサウス・ロンドンにあるアパートにいる。部屋はとても綺麗で(ソファの横に靴下が1足転がっていたことをさて置けば)、彼女と友人が写っている写真がたくさん飾られており、本棚にはハードカバーで製本された料理本が並んでいた。愛犬のカヤは彼女の横でソファーに身を丸め、窓の外を眺めていた。

「私が覚えている最初のナンバー・ワン・ヒット曲はホリー・ヴァランスの“Kiss Kiss”だった」とリナ・サワヤマは笑いながら思い返している。「でも、2番目に覚えているのはテレビで流れていたリンプ・ビズキットの“Rollin”だった。『なんていうジャンルなんだろう!?』って思ってたの」

Photos by Zoe McConnell for NME. Dress and Earrings by Alessandra Rich, Shoes by Jimmy Choo x Ashley Williams, Tights Stylist’s own

Photo: Photos by Zoe McConnell for NME. Dress and Earrings by Alessandra Rich, Shoes by Jimmy Choo x Ashley Williams, Tights Stylist’s own

多様なアルバムとなっているが、『サワヤマ』で一つ貫徹されているのは目も眩むような激情に繋がるためにニュー・メタルが使われていることだ。アルバムからの痛烈なリード・シングルである“STFU!”では日本人シンガーである彼女が人生で耐え忍ばなければならなかった自覚なき人種差別を激しく非難する曲となっている。“XS”は艶かしいR&Bのテイストに激情的なメタル・ギターをブレンドさせた曲で、裕福な有名人の「インスタ映え」のライフスタイルを批判している。

「基本的にそれぞれの曲のジャンルは歌詞やメロディーが伝えたいものが反映されているの」とリナ・サワヤマは彼女に穏やかに寄り添う愛犬カヤを撫でながら説明している。リナ・サワヤマがジャンルを表現のために用いているアーティストであり、その逆ではないということを示している。

彼女の最初のソロ楽曲は2013年にリリースされたゆるやかなエレクトロニック曲“Sleeping in Waking”だが、それ以来、彼女は極めて独立した存在であり続けている。ユニクロやナイキと契約してモデルやアルバイトの仕事をしながら、自己資金で音楽を続けてきた。そして、今はザ・1975やウルフ・アリスを擁するウルトラ・クールなレーベル、ダーティ・ヒットと契約している。

リナ・サワヤマはダーティ・ヒットとの契約について双方向のパートナーシップと評しており、独立ではなくレーベルと契約することにした判断について語っている。「インディペンデントなアーティストということは必然的にビジネス・オーナーであるということになる。すべて自分でやらなくちゃいけないの。どんなビジネスでもそうだけど、投資を受けないと成長できない。私は(契約がなくて)壁にぶつかっているように感じていた。状況はよくなったけど、アルバムはさらに行ってもらう必要があるわ」

レーベルが関わった時にはアルバムの「80%」は出来上がっていたが、契約によってザ・1975のギタリストであるアダム・ハンが“Dynasty”のギターを担当したり、そうしたことが彼女の戦略に加わることになった。レーベルの関わりによってやり手のプロデューサーのジョナサン・ギルモアの援助も得られることになったが、全編を通してクリエイティヴ・コントロールを握っているのはリナ・サワヤマである。「『これを変えなくちゃいけない』なんて言われることはなかったわ」と彼女は説明している。「プロセスのどんなところであってもね」

このアルバムは音楽的なセルフ・ポートレートとなっている。それは最もパーソナルなリナ・サワヤマであり、家族や友人たちとのひび割れた関係や両親がイギリスの生活で経験したこと、歴史的な遺産との関係性に言及されている。

『サワヤマ』では多くのパーソナルな事柄が扱われている。例えば、ゴスペルの影響を受けたエレクトロ・バラードである“Bad Friend”の中でリナ・サワヤマは仲違いした友人に対して謝罪し、自身の生活に没頭し過ぎたことを認めている(「フェイスブックでのことだったんだけど」と彼女は語っている。「『なんてこと、彼女に赤ちゃんができてる!』って知って、それで私たちの素晴らしい思い出を振り返ってみたんだけど、私って悪い友人だったなって感じたの」)。そして、PCミュージック所属のダニー・L・ハールがプロデュースしたカントリー調のバラード曲“Chosen Family”では、現在リナ・サワヤマが家族だと慕っているクィア・コミュニティに対する賛辞が歌われている。

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リナ・サワヤマは新潟県で産まれた後、5歳の時にロンドンに移住している。「英語が話せなくてイライラしていたのを覚えてる」と彼女は移住について語っている。「それから、私のママが英語を話せないことにもイライラしてた。彼女が悪いんだって思ってたの。『アァ、なんで彼女は訛ってるんだろう?なんで英語が話せないんだろう?』ってね。それから、私はたくさん彼女を責めたと思う。実際に受け入れてくれなかったのは外の世界だったんだけどね」

リナ・サワヤマの両親は自宅で日本の音楽を聴いていた。リナ・サワヤマは姉を通じて宇多田ヒカルなどのポップ・スターを知った。宇多田ヒカルの初期3枚のアルバムがリナ・サワヤマのソング・ライティングを方向付けた作品だと認めている。リナ・サワヤマがチャーリ−XCXのストックホルム公演のサポート・アクトを務めた際、宇多田ヒカルは観客として訪れていたそうだ。「彼女が『あなたの音楽が大好き!』って言ってくれたの」とリナ・サワヤマは語っている。「常軌を逸していたわ」

両親の離婚後、彼女は主に母親に育てられ、15歳になるまで母親と同じ部屋で暮らしていた。『サワヤマ』の幕開けを飾る“Dynasty”は両親の離婚について歌った楽曲である。リナ・サワヤマは「私は世代間の苦悩をポップ・ソングに落とし込みたいの」と語っている。重たいテーマが音楽的にはドラマチックで壮大なインストゥルメンタルに乗せられる。「教会のようなサウンドにしたかったの」

リナ・サワヤマは公立中学校時代でも苦悩にしていた。「本の読み上げ方も分かっていなかったの」と彼女は語っている。「当時まで英書を読んだことがなかったの。みんな『ハリー・ポッター』とか(アメリカのヤング・アダルト小説作家の)ジュディ・ブルームを読んでた。その中で私は『どうやって読めばいいかすらわからない』って感じだった」

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第二の故郷での疎外感は毎日の状況をさらに複雑化させていく。「先生がこう言ったことがあったの。『この本のコピーを取ってきてください』って。私は文字どおり、それが実際に書き写してくるってことだって理解できなかったの。私は写真のコピーみたいにしてコピーすることだって思っていた。ママにこう言った。『これを複写しなくちゃ。コピーを取って来いって言われたの』って。彼女もまた正しく理解できなかったの。私はもう『ママ、なんでわかってくれなかったの?』って感じだった」

母との緊張感がピークに達したのはリナ・サワヤマが10代の頃で、賑やかなビデオゲーム音楽風の“Paradisin”で当時のことについて言及している。リナ・サワヤマが家出をした際、母親は彼女のMSNメッセンジャー・アカウントにログインし、彼女の友人に彼女の居場所を詰問したのだという。「私は最善の人生を送ろうとしていただけ」と彼女は語っている。「なのに、ママは常に私を追ってくる。ゲームみたいだった。だから、この曲はちょっとゲーム音楽みたいなんだよね」リナ・サワヤマにとって、媒体こそが常にメッセージとなっている。

反抗期を迎えつつも、リナ・サワヤマはケンブリッジ大学に入学し、そこで複雑な感情を経験する。政治学や心理学、社会学を学べることを幸運だと感じる一方で、その環境は息苦しいものだとも感じていた。「男性中心的で、古臭くて、とても内向きな大学なの。私がまったく関わってこなかった世界だった。みんな、私のことを留学生だと思うわけ。私がアジア人だからね」

「ケンブリッジ大学はイギリスの上流階級の形成期よね」と彼女は考えながら語っている。「そして、それはとても興味深いものだった。将来の政治家や巨大な銀行家、経済を牛耳る人を見ているわけだから。でも、まだ19歳のわけでね」と彼女は止まって、笑いながら次のように続けている。「ろくでなしよね。基本的に」

リナ・サワヤマはケンブリッジ大学で音楽を作っていたが、同輩は皆、ニューメタル風のポップスよりもオーケストラ音楽のほうに惹かれていたのだという。「変よね。クリーン・バンディットの人たちと同じ時期にケンブリッジにいたのに」と彼女は語っている。「大学内にはインストゥルメンタル・バンドしかいなかった。彼らがメイ・ボール(学期末のパーティー)で演奏するのよ。その後、数年間も彼らは増えていったわ」

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リナ・サワヤマが属したコミュニティーの中で後にインディーズ界で有名になったのは彼らだけではない。リナ・サワヤマは高校時代と大学時代の序盤、現在ウルフ・アリスでベースを担当しているテオ・エリスとともにレイジー・ライオンというヒップホップ・グループに所属していたという。ウルフ・アリスの活躍を見て嫉妬しなかったのかと尋ねられている。

「それはなかったわ」と彼女はきっぱりと語っている。「私たちは大学に入っても解散しなかったんだけど、みんなそれぞれの場所に行ったわけ。テオは一生懸命頑張っていた。私たちがレイジー・ライオンをやってる頃、テオはウルフ・アリスに入って、その年だけで300以上のライブをこなしてたのを覚えている。私は『彼らは間違いなく大物になるね!』って感じだった」今やレーベルメイトとなったリナ・サワヤマとテオ・エリスは未だに連絡を取り合っている。2人はしばらく会っていなかったのだが、リナ・サワヤマはテオ・エリスにメールしてレーベルとの契約についての相談に乗ってもらっていた。

リナ・サワヤマはキャリアを形成していた時期、音楽制作に必要な資金繰りに精を出してきた。しかし、彼女の母親は最初、彼女の将来を不安視して、ミュージシャンとしてのキャリアに批判的だったという。「彼女はこんな感じだった。『なんで破産しながら音楽をやってるの? 本当に馬鹿馬鹿しいわよ。ケンブリッジ大学の学位をもってるのに……何をやってるの?』ってね」

状況が一転したのは、2017年に、ロンドンにある150人収容のザ・ピックル・ファクトリーというライブハウスで公演を行った時だった。「ママが公演を見に来たの」と彼女は語っている。「『わかったわ……これが現実ね。あなたにはファンがいるのね』と言ってくれた」満員の会場で曲に合わせて歌い激しく踊る観客を見て、リナ・サワヤマの母親は納得していた。

hotos by Zoe McConnell for NME. Top and Skirt by Gareth Wrighton, Shoes by Jimmy Choo, Earrings by Stephen Einhorn

Photo: hotos by Zoe McConnell for NME. Top and Skirt by Gareth Wrighton, Shoes by Jimmy Choo, Earrings by Stephen Einhorn

ここ数年を経て、リナ・サワヤマにはファンの一群がいる。彼女はファンのことをピクセルズと呼んでいる。特に、楽曲“Cherry”はたくさんのファンの共感を得て、彼女の元にたくさんのメッセージが寄せられることになった。当時、リナ・サワヤマは両親に対してまだ自身のセクシュアリティを打ち明けていなかった。「これはバイであることへの賛美ではないの」と彼女は説明している。「グレー・エリアや恥ずかしさだったりについての曲なの。『みんなは恥ずかしさについて話したいのかな?』って思ったのよ」

楽曲に対するファンからの反応についてリナ・サワヤマは顔を輝かしている。「途轍もなかったわ。とてもパーソナルなことを打ち明けた手紙をくれた人もいた。本当に素晴らしかった。特に、アジア人とか有色人種のコミュニティーの人々からもらったものはね」

熱狂的なファン・コミュニティーが存在していることから、彼女がソーシャル・メディアを活用しているのは驚くべきことではなく、アーティストとファンの境界が極めて希薄なミュージシャンの1人となっている。数ヶ月前、リナ・サワヤマは最新シングル“Comme des Garçons”で披露した自身のヴィジュアルについてツイッターで議論が展開され、三つ編みヘアについて文化的な流用であると意見する人が現れた。彼女はこれに次のように応じ(私がしているヘアスタイルはボックスブレードでもなければ、コーンロウでもない。それは譲れない。それらが私が属してないカルチャーから守るべき髪型であることは私も分かっているわ)、謝罪している。

「なんで人々が不快になってしまったかについては完全に理解している」と彼女は語っている。「だけど、それと同時にツイートの匿名性に対して不快感を覚えたわ。なかには本当に攻撃的なツイートをしている人もいてね。だけど、私がイラついたのは、ただただ不愉快なことを発言して注目されたいだけの人がいるだろうってこと。本当に悲しいことだよね。インステグラムでは意地悪なことを言われて、その人に『何よ?』って言うと、『ヘイ、女王様!気づいてくれたね!』みたいなことが返ってくることがあるの。私はただブロックするだけだけどね」

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「嫌なエネルギーだよね。精神的に消耗する価値もない。だって、そんな世界が見たいわけじゃないから。こうやって注意を引くしかないって考えている人がいるのは悲しいことだな」

リナ・サワヤマにとってこれは議論を巻き起こした最初の経験となったが、議論と言えば、ザ・1975のフロントマンであるマット・ヒーリーも無関係ではない。政治的なポップ・ミュージックのアイコンとなっている彼は彼女の音楽を応援しており(マット・ヒーリーはリナ・サワヤマが“STFU”をリリースする数週間前に彼女に対していかに楽曲が素晴らしいかを語るショート・メールを送信している)、気候変動からフェスティバルのラインナップ上での男女不平等に至るまで、様々な社会問題についてを代弁している。リナ・サワヤマも歯に衣着せないアーティストとして知られることになりたいのだろうか?

「わからないな」と彼女は笑顔と共に答えている。「たぶん、ツイッターのリプライやインスタグラムへのコメントを確認しなくてもいいやって思えるようになったら、あり得るんじゃないかな。彼からはロックンロールな教訓を得る必要があるわね。『あぁ、クールだね。出してみよう』って感じでしょう。私は音楽を通じて主張するほうが好みなの。そのほうがストレスを感じずに済むから」

リナ・サワヤマは自身の生涯を素直に表現したセルフ・ポートレート的な作品を制作するにあたり、様々なジャンルの音楽を使いこなしている。「私はただ、人々に何か感じて欲しいの」と彼女は自身の流儀について語っている。彼女の素晴らしいデビュー・アルバムにはインフルエンサーを風刺したアイロニカルなR&Bソングや、友人への敬意を示したソウルフルなカントリー・ソング、ニュー・メタルの復権を目論む楽曲など、様々な楽曲が収録されている。『サワヤマ』はこれまで語ってきた以上のアルバムとなっている。

リナ・サワヤマの新作アルバム『サワヤマ』は4月17日にダーティ・ヒットからリリースされている。

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