『アナと雪の女王2 オリジナル・サウンドトラック』収録曲“Into the Unknown”でフィーチャーされたことで、さらに注目度が高まったノルウェーのシンガー・ソングライター、オーロラが11月の最終週に初来日公演を行った。
会場は11月26日(火)が代官山SPACE ODD、27日(水)が渋谷duo MUSIC EXCHANGE。両日ともソールド・アウトとなり、ここ日本でも既に熱狂的なファンがついていることを知らしめることになった。自分は27日のduoに足を運んだのだが、オーロラがステージに登場するや悲鳴にも似た声があがり、ファン一人ひとりの彼女に対する熱い思いを感じずにはいられなかった。
ライヴは素晴らしいものだった。喜び・怒り・悲しみとあらゆる感情をフル稼働させたような歌唱表現は、音源で聴くよりも迫力がある。それが嘆きのように聴こえるときもあれば祈りのように聴こえるときもあった。また、回転したり、ジャンプしたりと、思っていた以上に激しく動いてパフォーマンスしたりもするのだが、それでも声が揺らぐようなことはまったくなく、エモーショナルな表現でありながら歌唱コントロールの技術に長けたシンガーであることが分かった。
オープニングアクトも務めた女性シンガー、シルヤ・ソルと向きあって歌ったり、横に並んで共にダンスしながら歌う場面では二人の声が合わさることで神秘性と躍動と深みが倍加する。ダークでヘヴィなロック・サウンドから、エレクトロの入ったドリーム・ポップ的サウンドまで、バンドの音表現にも幅があり、ライブを通じて大作映画のような物語性を感じもした。サウンドのスケール感とオーロラのパフォーマンスの力強さが理想的に合わさったそれは、なんならアリーナのような会場でこそ映えるもの。今回それをduo(またはSPACEODD)のような小さなハコで観ることができた我々日本のファンは幸せであり、これは後々自慢できることだなと思ったりもしたのだった。
また、彼女は母国語ではなく英語で丁寧に思いや歌に込めたメッセージを語り、「ドモアリガト」や「アイシテマス」といった言葉も何度か繰り返しながら、観客たちとしっかりコミュニケーションをとろうと努めていた。それは心の底からの言葉として響き、彼女がファンたちとの心の繋がりをどれだけ大切しているかがよくわかった。言葉の発し方、表情、仕草のひとつひとつが可憐で天使的。パフォーマンスの力強さと共に、そうしたファンとの接し方にも感動を覚えた、神聖にも思える約90分だった。
ライブの翌日、20分という短い時間ながらもオーロラにインタヴューすることができた。まずは初の日本公演の感想から訊いてみた。
「日本のオーディエンスはとても熱心にライブを観ていてくれますね。愛を感じました。私が手を伸ばせば、みんなの心に手が届くんじゃないかって思った。小さな会場でのライブは、まるでロックのそれのようで、生きているって実感も持てました」
オーロラにとって、ライヴ・パフォーマンスとはどういう意味を持つものなのだろうか。
「すごく特別なものですね。スタジオで音楽を制作しているときに頭のなかで起きていることとはまったく別のこと。初めのうちは音楽を作ることがすべてだったし、それが生きる証でもあったんです。曲を作ることで自分がどうしてこの世に存在しているかがわかるというか。逆に人前でパフォーマンスすることは、正直あまり好きじゃなかったし、違和感がありました。でも、時が過ぎ、回を重ねていくうちに、どうしてみんなの前で歌うのかということがクリアになっていった。『こういう曲を作っている私は、あなたたちと同じ人間なんです』ってみんなに見せることの大切さがわかり、そうすることによってみんなと心が繋がるんだとわかったんです。今ではライブをやるのは自然なことですし、ものすごく大事なことだと思っています。自分で自分を理解できるという側面もそこにはあるんですよ。ライブで聴いてくれているファンたちの表情を見ていると、私自身が私の曲の持つ意味を再認識できるんです」
オーロラはノルウェーのスタヴァンゲル生まれ。彼女の曲やミュージック・ビデオには自然、生物、植物がよく出てくる。自然や生物と彼女の表現は切っても切り離せないものだ。幼少の頃から自然に触れ、すべての生き物を愛しながら生きてきたのだろう。
「本当にそう。海の近くの静かな場所で、私は自然のありがたさを実感しながら育ったんです。自然は私にとって親友のような存在だった。自然と共にいることでいろんなことを考えることができた。自然が私を哲学者にしたんです(笑)。考えながら答えを見つけることをたくさんしてきたし、そこで命の尊さも学びました。私は社会と自然は真逆のものだと思っていて。例えば学校という社会や会社組織という社会は人にいろんな期待を押し付けてきますよね? それによって誰もがストレスを感じることになる。自然はこちらに対して何も期待をしてきません。なので、ただ自分らしくあればいい。それが許される。だから自然のなかにいると落ち着くんです」
そのように自然を愛しながら生活するなか、家ではラジオを聴くなどして音楽を好きになっていったのだろうか。
「それが、家にはラジオもテレビもなかったんです。あったのは何枚かのレコードだけ。私は自分から音楽を聴くことをせず、部屋で本やマンガを読んでいました。でも、数枚だけあったレコードのなかの1枚にエンヤの作品があって、それは本を読む際にちょうどいいバック・グラウンド・ミュージックにもなったので聴いていました。エンヤは好きでしたね」
6歳からピアノを弾くようになり、9歳で曲を作って歌詞を乗せることを覚えたという。その頃から自分の表現したいテーマのようなものが明確にあったのだそうだ。
「どうして自分で曲を作って言葉を乗せることをし始めたかというと、そうすることで理解できなかったことが理解できるようになると思ったからです。私は4歳の頃からいつも考えていたことがあって、それは死についてのこと。死という概念について理解できないから、もっと理解したいとずっと思い続けてきました。人は死と隣り合わせで生きている。いつかは死んで、肉体は滅びてなくなる。でも、魂はエネルギーとして存在し続けるかもしれない。宗教が大事だとされるのも、つまりそういうことですよね? でもわからない。いつか誰かと恋に落ちて、結婚して、家族になって。でもどちらかは先に死ぬ。そして傷みと喪失を感じながら、人は生きていく。私は死が怖いわけではなく、生き続けることのほうが怖いと思ったりするんですが、でも人間にはそれでも生きる強さがあったりするんですよね。だから私は死というものと、それに対する人間の強さの両方に惹かれる。その二つが自分がもっと深く理解したいことであり、表現し続けたいテーマなんだということを、曲を作り始めたときからわかっていたんです」
死の概念。自然や生物と共生することの大切さ。そして生きる者すべては対等であれという信念。オーロラの音楽で一貫して表現されているのは、そういったことだ。それをメッセージとしてみんなに伝えたい。伝えなくてはならない。そういう使命感にも似たものが彼女のなかにあるのだろうか。
「使命感は確かにあります。私がそれを持って音楽をやったところで、実際に世の中がどれだけ変わるかわからないし、どれだけの人が真剣に受け止めて考えてくれるかはわからない。でも少なくとも、それを伝えることによって私は夜眠れる。そうしなかったら眠れません。私はすべての人間は平等だと思っています。けれども、その当たり前のことが通らない国もありますよね。だけど音楽を通してだったら、そういうことを個人個人のレベルで浸透させていけるんじゃないかと信じているし、信じたいんです。私はお互いが尊重し合うことが何よりも大事だと思います。自分自身を尊重し、相手を尊重し、人を尊重し、異文化を尊重し、自然と生き物全てを尊重する。そのことが大事で、その尊重の気持ちを共有する際に、音楽はとても有効な手段になると思っているんです。言葉だけだと説教臭いものにもなりかねない。でも音楽を聴いていて、ふと気づくことはたくさんある。そして音楽が、その人の持つ可能性を引き出したりもするんです」
最後に訊いたのは2019年を席巻したあのアーティストのことだ。そう、会ったこともあるというビリー・アイリッシュについて。
「オーストラリアで彼女と彼女のお兄さんとお父さんとお母さんに会ったんです。みんなすごくいい人。私はビリーのファンだし、彼女の音楽からたくさん刺激をもらっている。だから、彼女と家族に会えたのは幸せなことだったし、話していていろいろインスパイアされました。彼女は本当に素晴らしいです!」
取材・文●内本順一
リリース情報
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