UKにおける若手アーティストたちの登竜門として知られる、ブリット・アウォーズのブリティッシュ・ブレイクスルー賞。今年の2月に行われた第39回ブリット・アウォーズ授賞式でその栄冠に輝いたのは、スコットランド出身のトム・ウォーカーだった。元々はロック・バンドの一員だったというトム・ウォーカーは、ソロ・アーティストたちが台頭していった時代に呼応するようにシンガー・ソングライターとしてのキャリアをスタートさせると、3月にリリースしたデビュー・アルバム『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』で全英1位を獲得するなど、アデルやサム・スミス、エド・シーラン、ラグンボーン・マンといったUKのシンガー・ソングライターの系譜を着々と歩んでいる。エド・シーランについて彼は次のように語っている。「このジンジャーヘアーでいい曲を書ける男の子がこれをループペダルとアコースティック・ギターでできるなら、僕もできるんじゃないか?」。ここに掲載するのは、レーベルによるオフィシャル・インタヴューだ。8月にサマーソニックでの初来日を控えたトム・ウォーカーが「27年間」の集大成だというデビュー・アルバムやロックからヒップホップに至るまでのこれまでの音楽遍歴について、そして、初となる日本でのステージへの意気込みを語ってくれた。
――ロンドンの音楽学校でソングライティングを専攻するまで、きちんと歌に取り組んだことはなかったそうですね。ご自身に歌という表現手段があることを知った時、どんな感慨を抱きましたか?
「それはもう、嬉しかったよ。そもそもなぜ歌い始めたかというと、当時の僕はたくさん曲を書いていて、そのためのデモをレコーディングしなくちゃいけなかったんだけど、シンガーの知り合いがいなくて、自分で歌うしかなかったんだ。それで、音楽学校に通っていた3年間にシンガーとしての表現を磨いたんだよ。本当に、思いがけずこういう展開になったという感じなんだ」
――それまでは歌うことは考えていなかったのですか?
「そうだね。というのも、僕の姉妹がシンガーとして素晴らしい才能に恵まれていて、彼女はずっと幼い頃から歌っているんだけど、そんな彼女を見て『僕は違うな』と意識していたところがあってね。とにかく、僕はギタリストなんだとずっと思い込んでいたんだ。ギターに専念するべきだってね。今思うと、おかしな話なんだけどさ」
――バンドのギタリストからソロのシンガー・ソングライターへの移行はスムーズにいったのでしょうか?
「そうだね。僕が聴く音楽のタイプも変化していったんだ。子供の頃は、アークティック・モンキーズやフー・ファイターズ、ミューズといったバンドにばかり夢中になっていたんだけど、
当時はちょうど、パオロ・ヌティーニやエド・シーラン、パッセンジャーといったソロ・アーティストが活躍し始めていったような時代だったからね」
――シンガーやソングライターとしてお手本にしたのはどのようなアーティストですか?
「あまりにも大勢いるから選ぶのが難しいけど、音楽にハマり始めた頃まで遡って考えると、主な影響源と言えるのは、大ファンだったAC/DCやアークティック・モンキーズ、それからパオロ(・ヌティーニ)だね」
――2017年のシングル“Leave a Light On”がブレイクスルー・ソングになったわけですが、あれほど多くの人とコネクトできた理由はどこにあると思いますか?
「やっぱり、多くの人が共感できるメッセージを含んでいたからじゃないかな。世の中には、例えばアルコール依存やメンタルヘルスの問題を抱えて、苦しんでいる人たちが大勢いる。それらは決して珍しいことではないのに、そうしたことを題材にした曲を日常的に耳にすることはほとんどないわけでね。チャートの上位に入っている曲といえば、相変わらずクラブに行って楽しむことだったり、高級車を乗り回すことについて歌っているような曲なわけで、そういうメッセージにはなかなか出会えない。人々が、こういう言葉を聴きたいと思っていたということじゃないかな」
――そういう意味で重みがある曲ですし、シングルとしては珍しいタイプですよね。
「そうだね。最終的にはレーベルといろいろ話し合った結果、この曲をリリースしようと決めたんだけど、どちらかというと、僕自身がこの曲を過小評価していたかもしれないな。いい曲だっていう自信は確かにあったけど、なんとかしてオーディエンスに届けようと、レーベルの人たちが一生懸命に取り組んでくれたんだ。然るべきプロモーションをしてくれたんだよ。おかげで世界中の国々に行き渡ることになったわけでさ、嬉しいことだよね」
――”Just You and I”もUKチャートで3位になった人気曲で、アルバムの中では唯一、本当の意味でのハッピーな曲じゃないかと思います。この曲を書くきっかけとなったような出来事はあったのでしょうか?
「この曲は数年前にフィアンセのために書いた曲でね。4年前だったかな。きっかけは何だったかっていうと……当時の僕らは遠距離恋愛をしていて、そういう状態が2年くらい続いたんだよね。だからフィアンセに会うために、ロンドンから彼女が暮らしていたシェフィールドまで150マイル(約240キロ)車を走らせて、また同じ道を運転して帰るということを繰り返していたんだ。その体験にインスパイアされた曲なんだよ」
――UKと同様に日本では現在、ザラ・ラーソンをフィーチャーした“Now You’re Gone”がシングルカットされて、ラジオでかかっています。この曲が生まれた経緯、そしてザラ・ラーソンとデュエットするに至った経緯を教えて下さい。
「これは(プロデューサーの)スティーヴ・マックとの共作で生まれた曲なんだ。誰か一緒に歌ってくれる女性シンガーが必要だっていう話を彼としていてね。スティーヴが偶然その時にザラとも仕事をしていて、彼女に聴かせてみてくれたんだ。そうしたら、ものすごく気に入ってくれたみたいでね。ある日突然、『そうそう、ザラ・ラーソンがあの曲を歌いたいって言うから試しにレコーディングしてみたんだけど、聴いてみるかい?』ってメールが送られてきたんだ。僕としてはまったくの想定外で、嬉しい驚きだったよ。ザラはシンガーとして素晴らしい才能の持ち主だし、人間としても素敵な女性だからね」
――題材はご自身の恋愛体験に基づいているのでしょうか?
「そうだね。交際を続けているうちに、だんだんネガティヴなものになってしまった関係を題材にしたんだ。自分にとって好ましくないと分かっていながらも、ズルズル続けてしまうという、よくあるタイプのものだよ」
――今年に入ってすでに、ブリット・アウォーズでブリティッシュ・ブレイクスルー賞を受賞、アルバム『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』が全英チャートで1位獲得と、エキサイティングな出来事が続いています。このような形で評価されて、アーティストとしてどのような影響がありましたか? 自信につながりましたか?
「そうだな……嬉しいことではあるよね。自分が作った作品がこういう形で評価されるのは光栄なことだよ。チャートで上位にランクインすることや音楽賞が目的でミュージシャン活動を行っているわけではないせよ、自分のやっていることは間違っていなかったんだっていう確認にはなったと思う。『歩いている道をこのまま進んで大丈夫だ』って、言ってもらえたような感じかな」
――このアルバムに着手したのは数年前になるそうですが、当時はどのような作品にしたいと考えていましたか?
「恐らく僕自身、あまりよく分かっていなかったんじゃないかと思う。むしろ、長い時間をかけてコツコツ積み重ねて、だんだんと形が見えてきたっていう感じかな。最初から、『こうしたい』という確固とした輪郭があって作ったアルバムではないんだ。作っている間に僕もミュージシャンやソングライターとして成長して、成長が曲に反映さることでどんどんいい曲が生まれるようになって、最終的にこの数がまとまったという感じなんだ」
――これまでに書いた曲から選び抜いたベスト・アルバムのようなものなのでしょうか?
「うん、それは間違いないよ。事実上、僕は27年を費やしてこれらの曲を書いたわけだからね。ここまでに至る人生のすべての体験が反映されたアルバムになっているし、現時点での『ベスト・オブ・トム・ウォーカー』といって差し支えないよ」
――スティーヴ・マック、ジム・アビス、マイク・スペンサーという3人をプロデューサーに迎えた本作は、“Cry Out”でのブルースから、ザラ・ラーソンが参加した“Now You’re Gone”でのコンテンポラリーなポップに至るまで、幅広いスタイルを網羅したアルバムとなっています。サウンド・プロダクションとしては、どのようにアプローチしたのでしょうか?
「そもそも、僕自身の音楽嗜好が幅広いんだ。いろいろなアーティスト、いろいろなジャンルの音楽を聴いて育ったから、それがアルバムにもそのまま反映されているんだよ。こういう風に実験をするのは、ポジティヴなことだと思う。同じようなことを毎日繰り返すのは退屈だからさ。あれこれミックスして、違うことを試してみないとね」
――言葉選びやビートの使い方にヒップホップの影響が強く感じられますが、ヒップホップとの関わりを教えて下さい。
「間違いなく影響は受けているよ。そもそも、子供の頃はエミネムが大好きだったんだ。というのも、彼はよくギター・ソロを楽曲に織り込んだりしていて、ヒップホップとギター・ロックを新しい形で融合していたよね。彼が登場するまではそんなにラップは聴かなかったんだけど、エミネムはヒップホップを捉える上で新しい視点を与えてくれた気がするよ。単純に、サウンドとしてすごく新鮮だったというのもあるね」
――本作は決して明るいアルバムではなく、大半の曲は私たちが毎日の生活の中で直面する試練を題材にしています。ソングライターとして、自然とそういう題材に惹かれるのでしょうか?
「必ずしもそういうわけじゃないと、自分では思っているんだけどね。常に思い悩んで落ち込んでいるようなタイプの人間はないからね。『ああ、もうダメだ……』っていう感じではないんだ。僕が思うに、日々の様々な体験のなかでも、やっぱり強いインパクトを与えるのは大抵、ものすごくいい出来事か、ものすごく悪い出来事なわけでね。ソングライターとしては、自然とそういう体験が題材になっていくんだ。僕にとって曲作りはセラピーのようなもので、日々の生活の中で苦難に直面した時には、気持ちを吐き出して言葉にすることで、心の中が整理しやすくなるんだよ。そういうわけで、ものすごくポジティヴなことだったり、ものすごくネガティヴなことがインスピレーションになるんだ」
――そんな中でも、“My Way”はご自身の人生のマニフェストのように聴こえますが、どのような状況下で書いた曲なのですか?
「あの曲が生まれた頃、僕はポスト・マローンの曲をよく聴いていたんだ。『ストーニー』のアルバムが出たばかりで、彼がやっているようなことを取り入れてみたいと思ったんだ。エミネムと同じで、ヒップホップとロックのミクスチュアだよね。そうしたものが、最終的にああいう形に落ち着いたんだよ」
――ところで、最近のUKではエド・シーランを筆頭に、ジョージ・エズラやルイス・キャパルディといった男性シンガー・ソングライターたちが大活躍しています。全員が飾らないキャラだという共通項もありますが、みなさんのような声が求められている背景には何があると思いますか?
「なぜなのか僕にはうまく説明できないけど、今の時代、きちんとした意味があるものだったり、実体のあるものを人々が求めているのかもしれないね。最近活躍している男性シンガー・ソングライターたちはみんな、日々の生活の中で直面する、すごくリアルなことを曲の題材にしているよね。空想の世界の話をしているわけではないし、金持ちになりたくて活動しているタイプでもない。とにかくいい曲を書いていると思うんだ」
――曲作りのネタには事欠かないと思いますが、既に次のアルバムに向けて曲作りをスタートしましたか?
「うん、確かに書きたいことには事欠かないし、まさについ最近、7日間のソングライティング・セッションを行ったんだ。6曲ほど出来上がったから、2ヶ月後くらいには何かしら新しい曲をみんなに聴かせられたらと思っている。新曲を加えて、アルバムを改めてリリースする可能性もあるよ。今は楽曲を作る作業を楽しんでいて、いい手応えを得ているよ」
――8月にはサマーソニックでの初来日も控えています。日本は初めてですか?
「そうなんだよ。初めてだから興奮しているし、同じくらい緊張もしているんだ。果たして日本に僕のファンがいてくれるのか、見当もつかないからね。『誰も観に来てくれなかったらどうしよう』って思っている。真面目な話、とても楽しみにしているよ。日本へはずっと行ってみたいと思っていたんだ」
――どんなショウを期待できそうですか?
「ライヴではフルバンドで演奏するから、ダイナミックでエキサイティングなものになるし、アルバムで聴くのとは印象がかなり違うものになると思う。曲のアレンジはあまり大きく変えないようにしているけど、とにかく、よりビッグで大胆で、エキサイティングなものになるはずだよ」
――日本で何か楽しみにしていることはありますか?
「まだスケジュールが分からないから、何とも言えないね。観光的なことができる時間があるといいんだけどさ。ツアー中は残念ながら、自由な時間が全然ないままに次の町に移動みたいなケースが多いんだ。でも、日本で何か面白い体験ができればいいなと願っているよ」
――最後に日本のリスナーへメッセージをお願いします。
「えっと、困ったな。何を喋ればいいだろう。日本の人たちが僕の音楽にどう反応するのか、行ってみないと分からないからさ。でも、とにかく日本に行けるのを心待ちにしているし、新しいオーディエンスの前でプレイするのは、いつだって楽しみなことなんだ。その昔ベッドルームで綴った曲のおかげで、こうして世界中を旅することができて、日本にまで行ってそれらの曲を歌えるなんて、夢にも思わなかったことだからね。ありがたい気持ちで一杯だよ」
リリース情報
トム・ウォーカー
全英アルバムチャート1位獲得
デビューアルバム『ホワット・ア・タイム・トゥー・ビー・アライヴ』配信中
https://lnk.to/TomWalkerWTTBA
日本の公式サイトはこちらから。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/TomWalker/
広告 【独占配信】エミー賞®史上最多18部門受賞の歴史的快挙!真田広之主演&プロデュース「SHOGUN 将軍」をディズニープラスで見る
Copyright © 2024 NME Networks Media Limited. NME is a registered trademark of NME Networks Media Limited being used under licence.