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- ★★★★★★★☆☆☆
再結成したバンドにとって、大規模なライヴで楽に利益を手にするのに較べて、ニュー・アルバムを制作するという選択は、ちょっとしたリスクである。ニュー・アルバムがピーク時のレベルに達しなければ、ガンズ・アンド・ローゼズやホールのように輝かしい過去を台無しにしてしまうおそれがあるからだ。というわけで、2014年12月に報じられたザ・リバティーンズが新しいアルバムを制作するというニュースは、エキサイティングであると同時に、不安を掻き立てることにもなった。
ピート、カール、ジョン、ゲイリーの4人が最後にアルバムをリリースした当時は(2004年の『リバティーンズ革命』)、彼らはドラッグ、逮捕、そしてバンドの崩壊へと続く、目まぐるしい動乱の渦中にいる若者たちだった。11年を経た今、4人は全員父親となり、ピートがドラッグ・カウンセラーをツアーに同行させるなど、落ち着きを見せている。また、法的なトラブルもここ3年ほど起きていない(ピートは2012年10月にフランス国有鉄道からスタッフの制服、食卓用銀食器類、冷肉の窃盗容疑を問われている)。バンドのファースト、セカンド・アルバムはいずれも、ドラッグや快楽主義、そしてロンドンの“埃や垢”がいっぱいに詰まった内容だった。そういう世界に、もうそれほど浸っていない現在の彼らは、自身のパロディーでもなく何について書くのだろうか。
タイのバンサレー(ピートが最近ドラッグのリハビリを終えた施設の近く)にあるカルマ・サウンド・スタジオでレコーディングされた『リバティーンズ再臨(Anthems For Doomed Youth)』は、過去18年間に起きた出来事による心の傷もテーマの一部となっている。収録された曲は、あたかも過去の亡霊(あるいは“You’re My Waterloo”の「燻された悪霊たち」)を振り払おうとするかのごとく、過去と現在の狭間を行き来する。表面的には、ザ・リバティーンズ(放蕩者たちの意)のメンバーたちはみな、かつてよりいい状況にあるように見える。しかし、まだ多くの感情を爆発させなければならないようだ。
カタルシスは、様々なトピックに及んでいる。まず最初は悪い習慣についてである。レゲエ風の“Gunga Din”ではピートとカールがそれぞれ好みの「悪癖」について代わる代わる歌っている。ピートが「got to find a vein(脈に打つんだ)」と言えば、カールは「a little drinky now and then just to help me just to see the light(希望を見出すために時々ちょっと飲む)」と告白する。また、大部分がアコースティックサウンドの“Iceman”は、クリスタル・メスの売人とつるむことの無益さを警告している(「Don’t spend your days in the haze with the iceman/It means nothing at all(アイスマンと何日もぼんやり過ごすなよ/まったく無意味だ)」)。
次のトピックは“鬱”である。精神面で問題を抱えているとオープンに語るカールは、“Belly of the Beast”で包み隠さず事実をさらけ出す。かろうじて聞こえるシンセとゆったりしたギターに乗せて、カールはダークな詞を、まるで子供向けの韻を踏むリズムのような調子で繰り出す(「Back in London’s grey scotch mist, staring up at my therapist/He says ‘pound for pound, blow for blow/You’re the most messed up motherfucker I know(ロンドンの灰色でスコッチのような霧の中、セラピストを見上げると/彼は言う、『パウンド・フォー・パウンド、打たれたら打ち返せ、お前みたいにひどいクソったれを他に知らない』)」)。
さらに、長年ザ・リバティーンズの楽曲の要であるテーマが登場する。ピートとカールの関係である。“Fury of Chonburi”は、ピートとカールがレコーディング期間中に頻繁に通ったタイの悪の巣窟、パタヤの所在地である地域から名付けられた(ここで“Gunga Din”のビデオ撮影も行っている)。テーマにふさわしい大音響のパンクで、お互いを「ピッグマン」(互いのニックネーム)と呼び合っている。同曲の最大のクライマックスは、カールが叫ぶ「I think he’ll do just fine if he can toe the line(規則に従えるなら、あいつはうまくやれる)」の一節だ。“Glasgow Coma Scale Blues”は、“Can’t Stand Me Now”と“What Became Of The Likely Lads”とのハイブリッドのような楽曲である。この曲ではピートとカールが辛辣なフレーズをやり取りする。例えば、ピートが「You think it’s easy/With a best friend who deceives me(何でもないと思ってるんだろう/俺は親友に欺かれるんだ)」と歌えば、カールが「The only thing that kept it going on was lust for companionship, whiskey and song/How could it go wrong? Seriously…(付き合いが続いたのは、ただ一緒にいる相手と、ウイスキーと歌が欲しかったからさ/それが悪いのか? マジで…)」と応酬する。曲のタイトルは、医師が使用する意識障害の評価方法から取られている。恐らく、かつて一度、彼らの友情が途絶えていた状態を表現したものと思われる。
過去に思いを巡らす曲も多数含まれている。ロンドンっ子のキャバレーとロシアのサーカスが登場する(ゲイリー・パウエルのドラムとギターがイントロで伝統的なロシアのフォーク・ミュージックをまねて惹き込む)“Fame And Fortune”は、ラフ・トレード・レコードに所属していた頃の、大都市ロンドンでスタートした当時のストーリーで、「The deal was done/The trade was rough(契約は完了した/内容は乱暴だ)」と歌っている。“Anthem for Doomed Youth”では、このスタート時期直後のことを取り上げており、カール・バラーがバンド内の崩壊を「Yes we thought that they were brothers/Then they half-murdered each other(そうさ、俺たちはお互い兄弟だと思ってたんだ/なのに互いを半殺しの目に遭わせた)」と歌っている。繊細ではかない“The Milkman’s Horse”では、ブラシを使ったドラムとギターをバックに、ピート・ドハーティが絶望的に「It must be boring being you being me(お前は退屈な奴だろうけど、俺の代わりになるのも退屈だろうな)」と歌っている。ピート・ドハーティが誰に対して歌っているのかは明らかではないが、この歌詞は2004年に彼に代わってバンドに加入したアンソニー・ロッソマンドに当てはめることができそうだ。
『リバティーンズ再臨』には多くの聴きどころがあるが、中でも印象に残るのは彼らが『リバティーンズ宣言』や『リバティーンズ革命』でやったことの再現をしようとはしていないという、バンドの意志だろう。“Bucket Shop”や“Love On The Dole”のように、アルバムのためにレコーディングされた曲に対して、一曲だけ昔懐かしい曲が入っている。涙を誘われる“You’re My Waterloo”のニュー・ヴァージョンで、イギリスの鉄道の駅(ウォータールーのジプシー・レーン)や、ザ・リバティーンズが頻繁に引用する、トニー・ハンコックやオールド・ヴィック・シアターなどが登場している。1999年のデモ音源(現在もオンラインで入手可能)では、ピート・ドハーティがブレット・アンダーソンを印象づけようと努力しているように聞こえるが、今回の彼はもっと自分らしく、2005年頃までに彼が辿りついた声に自信を得ているようだ。そのため、曲自体もずっと良くなっている。弦楽器やピアノ、そして心を込めた曲名(多くのファンがカール・バラーのことだと推測する)の繰り返しの見事なミックスにより、このアルバムで最も美しく素晴らしい曲の1つになっている。
また、“Gunga Din”や“Barbarians”、“Heart of the Matter”ではレゲエやスカなど、必ずしもザ・リバティーンズと結びつかないような、より大衆向けのメロディーを取り入れることも試みている。“Anthem for Doomed Youth”は、移り気で美しく、ヴォーカルが後押しするかのように最後の激痛を爆発させる。“Dead For Love”はより一層印象的だ。ピート・ドハーティの最近亡くなったミュージシャン仲間のアラン・ワスに捧げられた曲で、用心深く一音ずつ奏でられるピアノと映画のフィルムが回る音が、不気味な雰囲気を醸し出している。
活動休止期間が長かったせいで、ザ・リバティーンズがいかに人々にとって大きな存在であったかを忘れてしまったかもしれない。しかし、彼らの歌詞には、“I Get Along”の「fuck ‘em(放っておけ)」から、“The Good Old Days”の「if you’ve lost your faith in love and music the end won’t be long(もし愛と音楽への信念を失くしてしまったら、終わりは遠くない)」まで、いつも心に響くものがあった。『リバティーンズ再臨』も同様に、「I believe somehow the world’s fucked but it won’t get me down(どこかで世界はくだらないと思っているけど、ガッカリしたりはしない)(“Barbarians”より)」や「we’re going nowhere but nowhere’s on our way(行き先なんかどこにもないけど、少なくとも俺たちはどこかに向かっている)(“Anthem for Doomed Youth”より)」など心に残る歌詞を聞くことができる。このアルバムのタイトルは第一次世界大戦で戦死した兵士たちに捧げられたウィルフレッド・オウェンの詩からとったもので、これがザ・リバティーンズの、彼らと同様に逆境を切り抜けてきた人たちに捧げる賛歌なのだ。
しかし、わずかな誤りもあるようだ。“Gunga Din”でカール・バラーが歌う「Oh fuck it/Here I go again(知ったことか/俺がまたいくぞ)」は、彼がアルバムの他の箇所で見せる激しさと比べると、うわべだけに感じる。“Fame and Fortune”を通して表現される究極の“ロンドンっ子イズム”は、ファンの好き嫌いを二分する“マーマイト効果”を持っているようだし、“Iceman”は夢中になって繰り返し聞くタイプの曲ではない。これは、一般のファンがザ・リバティーンズの熱心なファンたちと同じように強く魅了されている場合、大問題だ。
こうしたわけで、『リバティーンズ再臨』は、ザ・リバティーンズらしさが顕著に表れているというわけではないし、また彼らの功績を汚すようなものでもない。ピート・ドハーティは、すでに4枚目のアルバムについてできるだけ早く制作したいと語っており、これは終盤に向けたステップのようにもとれるし、彼らが10年前にたてたハイ・スタンダードなレベルへの前進のようにも感じられる。音楽は必ずしも調和してない一方で、歌詞は、ザ・リバティーンズがイギリスのバンドの中で絶対的な地位にいることを再認識させたし、アルビオンに乗り込む新しい世代のファンたちにも受け継がれていくだろう。
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