Yosuke Torii /PRESS

Photo: Yosuke Torii /PRESS

BBCサウンド・オブ・2017の候補になったこと然り、UKのロック・アクト/ギター・ミュージックとしては今年最大級の注目を集めている新人と言って間違いない。弱冠18歳のソングライター、デクラン・マッケンナが本日7月26日にデビュー・アルバム『ホワット・ドゥ・ユー・シンク・アバウト・ザ・カー?』で日本デビューを果たしている。そこで、このインタヴューでは18歳の彼に選んでもらった、生まれる前の名盤3作と生まれた後の名盤3作について語ってもらった。インタヴューは6月のプロモーション来日時に行われたもので、奇しくもイギリスの解散総選挙の日と重なり、ずっとスマートフォンで選挙結果を気にする姿がその人となりを端的に表していた。

――ついさっき第1党の保守党が過半数割れした選挙結果が出ましたけれども、どう受け止めていますか?

「嬉しいんだけど、じゃあ今後がどうなるのっていうのでちょっと結構戸惑いもあるよ。というのも、イギリスってずっと2大政党がどっちかっていうので、どっちかが勝って、それ主導で政治が動いていたからね。だけど、今って他の細かい政党が出てきちゃったがために散っちゃって、こうやってみんな過半数が取れないんだ。そうすると政治がすごく混乱するのかな、どうなんだろうっていうね。僕が政治に参加するようになって、まだこうなるのは初めてだから、今後どうなるか期待と不安が入り混じってるよ」

――労働党の党首であるジェレミー・コービンについてはどう思ってます?

「まあ、好きだよね。要は史上最高の政治家だとまでは言わないけれど、少なくとも(テリーザ・)メイや、あるいは他の党の党首よりも尊敬できるし、嘘のない、いわゆる誠実さも伝わってくる。信頼出来る人だし、今回特に今回の選挙で特にいい仕事をしたなということで好きだね」

――では、音楽の話に入りましょうか。弱冠18歳でギター・ミュージックによるデビュー・アルバムが出るわけですけど、このインタヴューではあなたが生まれる前に出たアルバムから名盤を3枚、あなたが生まれた後に出たアルバムから名盤を3枚選んでいただいて、それぞれのアルバムについてコメントをいただきたいんです。

「選んでいけばいいんだよね?」

――そうです。

「じゃあ、1作目はデヴィッド・ボウイの『スケアリー・モンスターズ』かな」

1. デヴィッド・ボウイ『スケアリー・モンスターズ』

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「もちろん、“Ashes To Ashes”という一番好きな曲の一つが入ってるというのがあるけど、でも、アルバムとしてもデヴィッド・ボウイの作品の中でも、いわゆる全部を通して聴くという意味では1〜2を争う作品だよ。サウンドも本当にすごく豊かだし、とにかくデヴィッド・ボウイらしい、特に80年代のデヴィッド・ボウイを象徴しているとことがあって、非常に力強い傑作だよね。キラキラしてるし、キャンディーのような、もう本当にキャッチーなメロディもたくさんあって、ソングライティングも素晴らしいと思うね」

2. ニーナ・シモンズ『ワイルド・イズ・ザ・ウィンド』

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「彼女の一番有名な作品かどうかはわからないけど、自分にとってはアルバムを聴いてて悲しい面もあるけど、すごく希望を感じる部分もあって、多分いろいろなものを失って、嫌なこともすごくたくさん経験しているけど、でも、それでも何か光を求めているっていうのを感じるんだ。“Lilac Wine”とかを聴いても、本当にすごく悲しいつらい経験をこの人はしたんだろうけど、でも、そこからこれだけ美しく、非常に力強いものが生み出せるってなんてすごいんだっていう風に感じる作品だね。彼女の声とピアノも素晴らしいよ」

3. ABBA『ザ・ビジターズ』

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「今年一番聴いてるね。最後のABBAのアルバムなんだけど、それに向けて3年連続で『ヴーレ・ヴー』、『スーパー・トゥルーパー』、『ザ・ビジターズ』と毎年アルバムを出してて、どれも本当に素晴らしいんだけど、この最後のアルバムは本当にパーティー・アルバムでね。みんなで盛り上がるダンス、ポップもあれば、でもそれでも悲しい曲も入っていって、しんみりするような曲、 “Soldiers”なんかはダウンビートもポップ・ソングの中では珍しい5拍子とかの瞬間があったりするんだ。歌も『ザ・ビジターズ』の曲はすごく綺麗に流れるというか、展開が美しい。というところで81年に出した作品ではあるけど、それこそ今の結構多くのポップ・ソングライターたちが目指してるポップの形っていうものを、既にその時に体現していて、その先駆者だっていうぐらいに本当にすごいんだ。メロディーがすごく美しくて、“Head Over Heels”にしても “One Of Us”にしても、シングルの“Under Attack“にしても、とにかくどれもいい曲ばっかりでハッピーだけど悲しい瞬間もある。本当に大好きでしょうがないよ」

――それでは、ここからの3枚はあなたが生まれた後のアルバムでお願いできますか。

4. JJ・ドゥーム『キー・トゥ・ザ・カフス』

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「JJ・ドゥームの『キー・トゥ・ザ・カフス』。どんな状況でも聴けるんだ。どんな状況でもこれをかけて、踊れるし歌ってもいいし、ラップするでもいいし、とにかくこの2年間くらいの間に何度も何度も聴いたアルバムで、本当にいろいろすごくクリエイティヴなんだけど、いろいろ数あるプロジェクトの中でもマッドリブとやったマッドヴィランに匹敵するくらい、あのアルバムと双璧をなすくらい最高なアルバムで、すごく好きなんだ。やっぱり歌詞、彼のリリックが韻の踏み方もただかっちりかっちり踏むんじゃなくて、変わった感じででもわかりやすい言葉でしっかり踏んでて、でもすごく深いことを言ってるところがすごい好きなんだよ」

5. アンノウン・モータル・オーケストラ『マルチ・ラヴ』

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「アンノウン・モータル・オーケストラの『マルチ・ラヴ』かな。好きなバンドで、ソングライティングだけだったら、他にもこういうバンドはいるかもしれないけど、それをプロダクションと組み合わせると、本当にこういう音を出せる人たちはいないなって思うんだ。すごくソウルフルだけど、例えばドラムはヒップホップ風に非常にコンプレッションがかかったりとか、でもギターとキーボードがサイケデリックだったりとかね。最初の2枚は結構ローファイで、他にもこういう音を出してるバンドはいるなと思ったけど、この『マルチ・ラヴ』に関しては本当に自分たち独自の世界を確立してるよね。最初の曲は非常にロック・ポップで結構自分もすごくいろいろ参考させてもらった曲だし、“Stage Or Screen”はスティーヴィー・ワンダー風にすごくソウルフルさが弾けてて、最後の曲の“Puzzles”はアルバムを締めくくるのに何度も何度も繰り返しされる、とにかくそのへんも含めて全部がクリエイティヴですごいよ」

6. オブ・モントリオール『サタニック・パニック・イン・ジ・アティック』

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「好きなアルバムがたくさんあってどうしよう。結構最近の2枚になっちゃったからね。じゃあ、オブ・モントリオールの『サタニック・パニック・イン・ジ・アティック』で。オブ・モントリオールって実は結構最近ここ2〜3ヶ月真剣に聴くようになったんだけど、彼らのアルバムをちゃんと聴いたのはこれが初めてでね。でも、これって結構知る人ぞ知る名作としてすごく取り上げられる作品だってのは聞いてたんだけど、最近改めて聴いて『あ、なんかすごくいいバンドじゃん』みたいな発見があったんだ。みんながいい、いいって言うのがすごいわかるし、多くのバンドに影響を与えたってのも改めて知ったよ。自分の好きなバンドがこのバンドに影響を受けてるなっていうのがすごい聴いてて分かったね。いろんな人に与えた影響がここに詰まってるんだっていうのがわかったんだ。デジタルの時代のプロダクションの初期っていうところがすごく分かるし、ロジックを使いこなした最初のバンドなのかなということとか、サウンドが非常に鮮やかだっていうのと、いろんな不思議なサウンドがいっぱいあるところとか、常に変化を繰り返しているところも好きだし、スフィアン・スティーヴンスの曲とかもそうだけど、本当に他に聴いたことがないような感じで、歌詞も素晴らしいのにちょっと変な変わってるところもすごい好きだね」

デビュー作『ホワット・ドゥ・ユー・シンク・アバウト・ザ・カー?』について

――そして、ついにあなたのアルバムが出るんですけれども、UKのみならずUSシーンの音楽にも影響を受けていると思うんですけど、今のイギリスのシーンについてはどう思いますか?

「才能ある人はたくさんいると思う。でも、正直言って、ちょっと行き詰まってるかな。インディ・シーンが長く続いてたから行き着くところまで来ちゃって、クールなバンドも最初はたくさんいたけど、今は繰り返しばかりで、あまりやってることにヴァリエーションがない感じだよね。たとえちょっと違ったとしてもこのシーンにはまっちゃって抜け出せなくて、それはアークティック・モンキーズとか、マッカビーズとか、フォールズとかそういうバンドの陰に隠れてしまってる。僕は労働者階級の人にもっとバンドを始める機会があればと思う。というのは、多くのユース・クラブ(若者支援機関)が閉まっていって、そんな状況にいるのが僕だしね。人々が一緒に書く機会は減ったし、でも、その間に今人々は完全にインディ・シーンと関係を絶つことが必要だよ。それは本当に悪いと思うからじゃなくて、はまって抜け出せなくなってると思うし、前に進まないといけないと思うしね。それが今インディー・シーンで起こってることで、そこから抜け出せたバンドっていうのはほとんどいない。とんでもなく革新的な何かに取り組むとかね。僕自身もインディー・シーンから完全に切り離せると言ってるわけじゃないけど、自分がこれからの2〜3年で脱却して、その影から出てまったく新しいシーンを始めたいね。10年とか15年前のインディ・シーンでやられてなかったことをやって、何年後かにインパクトを与えられるようなバンドを作りたいんだ。それが今思ってることかな」

――今おっしゃった通り、チャートなんかを見ると、ギター不在の時代だと思うんですけれども、そういう時代にこういうアルバムを出すこと、こういう活動をあなたはギターを持ってすることをどう思っていますか。

「それでもエキサイティングだと思うよ。もし人々が好むのと違うことができるなら、どこかにたどり着けるよね。例えばブロッサムズなんかは、それがイギリスや他のいくつかの地域で本当にビッグになった、ほぼ唯一のブリティッシュ・インディ・バンドである主な理由だと思う。っていうのは、彼らはインディ・ポップとかを書いたことがないって感じじゃないけど、そのシーンで演奏したりってことがなかったんだよ。彼らは常にマンチェスター・シーンの一部だったんだ。それっていうのは若干違うよね。彼らは自分たちのバックグラウンドについてインディ・シーン出身っていうことより、ストックポート出身っていうことについてより主張してるから、その影の外にいることができてるし、実際に彼ら自身のサウンドだって、かなり違ったものを持ってるんだ。だから、僕自身はエキサイティングな時代だと思ってるよ。もしそういうことができれば、もし違った何かができれば、本当にチャンスはあるよね。僕は最近はイギリスのBBCラジオ1とか、世界中のいろいろな人々から多くのサポートがあって幸運だよ。だから、エキサイティングな時代だと思うよ。その挑戦にはひるんでないんだ。本当に度胸を据えるには2〜3年とかアルバム2〜3枚とかかかるだろうね。なぜなら学ぶことがまだたくさんあるからさ。でも、その来たる挑戦にワクワクしてるんだ」

――じゃあ最後の質問は、このアルバムを出すことによってあなたはどんな人として理解されたいと思いますか。

「僕は現実的なものじゃないイメージは示さないようにしてるんだ。髪の毛とかは変わるけど、人々が共感できるレベルに留まろうと思うよ。だから、みんなが僕をありのままの僕として見てくれればいいね。でも、それは明らかに実現しないわけで、自分について書かれるし、人々は自分が同意でないようなことを話すだろうし、自分が賛成しないようなラベルを貼られるだろうから、それをあまり当てにはできないよね。だから人々にはただ18歳として、若者として見てほしいかな。ただ楽しく過ごしたり、音楽業界で楽しもうとしてるようなね。その他のすべては素晴らしいよ。人々は本当に曲も理解してくれたし、それは本当に素晴らしいよね。新人アーティストとしてはそれが望めることすべてって感じだよ。やりたいかもってことは、ミュージシャンの先輩にこのアルバムを渡すってことかな。願わくば気に入ってほしいね!」

ミュージック・ビデオ

リリース詳細

DeclanAlbum

原題:What Do You Think About The Car?
邦題:ホワット・ドゥ・ユー・シンク・アバウト・ザ・カー?
アーティスト名:デクラン・マッケンナ
品番:SICX78
価格:¥2,200+税
発売日:2017年7月26日 日本発売
収録曲:
01 Humongous
02 Brazil
03 The Kids Don’t Wanna Come Home
04 Mind
05 Make Me Your Queen
06 Isombard
07 I Am Everyone Else
08 Bethlehem
09 Why Do You Feel So Down 
10 Paracetamol
11 Listen to Your Friends
12 Excitement (Demo)*
13 Blew (Live at the Garage)*
14 Basic (Live at the Garage)*
※日本盤CD ボーナス・トラック3曲追加収録

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