KEIJI OKUBO/PRESS

Photo: KEIJI OKUBO/PRESS

※本記事では本日の公演内容が分かる形でレポートをお送りします。読まれる際には御注意ください。

最後の来日はユナイテッド・ネイションズ・オブ・サウンドを従えての来日となった6年前の2010年、ソロでの来日としては16年ぶりである。長年、リチャード・アシュクロフトのツアーに同行し、ザ・ストーン・ローゼズやオアシスとも仕事をしてきた外国人スタッフとも今日話していたのだが、その彼も「歌」ということでいったら、やっぱりリチャードが一番なんだと語っていた。そう、90年代のUKロックが生んだ最高のヴォーカリスト、リチャード・アシュクロフトが日本のステージに久々に立つことになったのだ。

開演20分前、それまでのBGMとは違った特殊なSEが流れ始める。そう、なんとリチャード・アシュクロフトは今回の公演で世界初公開となった独自SEを制作してきてくれたのだ。そして、開演時刻を少し過ぎたところで、会場内の客電が落ちる。1曲目は最新作『ジーズ・ピープル』のオープニングを飾る“Out of My Body”だ。オレンジのブルゾンに身を包んだリチャード・アシュクロフトがステージに姿を現すと、彼のことを待ちわびていたファンから大歓声が起こる。着ているのは、巷で少し話題になった「この人達」Tシャツ。バンドはUKらしい骨太なサウンドだが、それにも増して力強いのがリチャードのヴォーカルだ。一声目を発しただけで、圧倒的な存在感を放つ。そして、2曲目で早くもザ・ヴァーヴ時代より『アーバン・ヒムズ』の“Sonnet”が披露される。先日、NME Japanでお送りした来日直前インタヴューでも本人が語っていた通り、すべては自分の書いた曲であり、彼にとってはソロ時代の楽曲もザ・ヴァーヴ時代の楽曲も垣根はないという。あのアコースティック・ギターのイントロを本人自ら弾いてみせ、「そう、君が望めば、愛はあるんだ(Yes, there’s love if you want it)」というサビでは大きなシンガロングが巻き起こる。

3曲目はソロでのサード・アルバム『キーズ・トゥ・ザ・ワールド』からの“Break The Night With Colour”。少し落ち着いた曲調の楽曲だが、リチャード・アシュクロフトならではのメロディ・ラインを堪能できる楽曲でもある。そう、こうした素晴らしいソロの佳曲も日本ではずっと長い間、演奏される場を失っていたのだ。ミドル・テンポの楽曲でもバンドの力強い演奏は変わらず、最後はそのサイケデリックなギターによってジャムとも言える展開に突入していく。続く4曲目はこちらもソングライティングが素晴らしい最新作『ジーズ・ピープル』からの“They Don’t Own Me”、これが実にザ・ヴァーヴ時代のクラシック感を持った楽曲なのだ。携帯電話から長年離れた生活を送り、徹頭徹尾自分を信じ続けるこの人ならではの、「俺はあいつらのものになんかならない」というメッセージ――そうした姿勢ゆえ誤解を受けることもあったし、その唯我独尊感がもしかすると日本のオーディエンスとの距離を生んでいたところもあるかもしれない。しかし、こうして久々に日本のステージに立った彼は、曲ごとに観客への感謝の言葉と姿勢を示してみせる。そして、大阪のファンが熱い。ソールドアウトとはならなかったが、この場に集まった人がリチャード・アシュクロフトという稀代のヴォーカリストを心の底から待っていたのが伝わってくるのだ。そんな観客へのリスペクトの言葉を口にして始まったのは“Music Is Power”。レゲエのフィーリングも持ったこの曲だが、楽曲の中盤で見せてくれたリチャード・アシュクロフトのファルセットの美しさと言ったら。やっぱりヴォーカリストとしての馬力が違う。

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“Music Is Power”が終わると、リチャード!と声援が飛ぶと、最前列の観客にしゃがみ込んで、触れ合ってみせる。そう、この人、根は優しくて、実はオープンな人柄だったりする。続けて披露されたのは、最新作『ジーズ・ピープル』からのリード・シングルとなった“This Is How It Feels”で、あくまでザ・ヴァーヴ時代から地続きのオーガニックなソングライティングを主体としながら、エレクトロニックなサウンドも取り入れた最新作のサウンドを象徴している曲だ。イントロが流れると、客席からは大きな歓声が巻き起こる。そして、妻のケイトに捧げると言って披露されたのは、“Lucky Man”である。もちろん、『アーバン・ヒムズ』を代表する名曲だが、ライヴ全体のなかでこの曲が浮くことなく、しっかりと溶け込んでいることに今のリチャード・アシュクロフトの充実っぷりが伝わってくる。そして、そのヴォーカルの力強さは過去の来日公演でも最高のものだ。

そして、“Lucky Man”が終わると、このなかにミュージシャンはいるかとリチャードは尋ね始め、「この曲はGDEAの4つのコードだけでできてるんだ。あとはスピリットなんだよ」と観客に語りかける。その姿がなんともいじらしい。そして、興に乗ったのか、なにやらバンドと話し合ってると思ったら、事前のセットリストでは予定されていなかった『ヒューマン・コンディションズ』収録の“Science Of Silence”を演奏してしまう。最近はデジタルが数多く導入されたこともあって、ステージ上でセットリストを変更するアーティストも少なくなったが、そういうことをさらりとやってのけるのがこの人だ。そして、ソロ・キャリアの原点となったソロ・ファースト・アルバム『アローン・ウィズ・エヴリバディ』からは、この日最もヘヴィでカオティックだった“New York”を披露して本編が終了する。

アンコールは、たった一人の弾き語りによるソロ・デビュー・シングル“A Song for the Lovers”で始まった。原曲は壮大なオーケストレーションでアレンジされていたが、彼のヴォーカルとアコースティック・ギターだけでこの曲の剥き出しの姿が露わになる。そして、曲名を告げただけで歓声が巻き起こった“The Drugs Don’t Work”はリチャード一人の弾き語りで始まり、アウトロでバンドが加わって「Yeah, I know I’ll see your face again」の大合唱に。そして、この日のライヴもクライマックスとなるところで、最新作『ジーズ・ピープル』より“Hold On”が投下される。『アーバン・ヒムズ』を手掛けたウィル・マローンによるストリングス・アレンジとデジタル・サウンドが、リチャード・アシュクロフトの声という肉体を通して融合する。もちろん、最後を飾るのは、これをやらずに帰れない“Bitter Sweet Symphony”。あの権利関係で波紋を呼ぶことになったストリングスのループが響き渡り、会場中の手が挙がる。曲の後半では観客からのシンガロングに応えて、リチャードは最前列の観客と軒並み握手をしていく。こんなリチャード・アシュクロフトの姿を想像し得ただろうか? そして、彼は最後観客全員を抱きしめるようなジェスチャーをして、深々とオーディエンスに頭を下げて、ステージを降りていった。ヒットチャートの順位は毎週移ろっていく。毎週、様々な新曲がリリースされる。でも、感情の奥深くに突き刺さって、ずっとそこに留まり続ける、そんな名曲が誰しにもある。そんなことをきっとこの人はその真っ直ぐな目で思い出させてくれるはずだ。

1. Out of My Body
2. Sonnet
3. Break The Night With Colour
4. They Don’t Own Me
5. Music Is Power
6. This Is How It Feels
7. Lucky Man
8. Science Of Silence
9. New York
encore
10. A Song for the Lovers
11. The Drugs Don’t Work
12. Hold On
13. Bitter Sweet Symphony

来日公演の詳細は以下の通り。

NME JAPAN presents リチャード・アシュクロフト ジャパン・ツアー2016

大阪(終了)
10月4日(火) ZEPP NAMBA
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500、2F指定席¥9,500(税込・1ドリンク代別)

東京
10月6日(木) ZEPP TOKYO
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500(税込・1ドリンク代別)、2F指定席¥9,500(※SOLD OUT)

10月7日(金) ZEPP TOKYO
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500(税込・1ドリンク代別)、2F指定席¥9,500(※SOLD OUT)

公演の公式サイトはこちらから。

http://ashcroft-japantour.com

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