エモ・ファンたちは密かな(あるいはそう密かではないかもしれない)吉報に沸くことになった。真っ黒なヘアカラーを手に、両親との絶縁を誓う時が再びやって来たのだ。なぜなら、マイ・ケミカル・ロマンスが彼らの最も成功を収めたサード・アルバム『ザ・ブラック・パレード』が10周年を記念して、そのエクステンデッド・ヴァージョンがリリースされたのだ(そう、我々はもうそんなに歳をとったのだ)。
10周年記念盤の発表時には永らく休止状態にあったバンドのツイッターに謎のティーザー動画が投稿され、インターネットの一部で大反響を呼ぶこととなった。
では、一体あの騒ぎは何を意味していたのだろうか。つまり、『ザ・ブラック・パレード』は単にこのバンドのベスト・アルバムというだけでもなければ、そのジャンルを最も端的に表現しているアルバムというだけでもない。これは、2000年代の10年間において最も重要なレコードの一つだということなのである。
そのリリースに際し、『NME』が「仰々しいコンセプト・アルバム、かつ死についてのロック・オペラ」と評したこのアルバムは、グリーン・デイの『アメリカン・イディオット』にヒントを得た大袈裟な力作であるが(両アルバムは同じプロデューサーによってレコーディングされている)、グリーン・デイとは似ても似つかないサウンドに仕上がっている。
このアルバムより2年前、良質ではあるが、必ずしも秀作とは言えないメジャー・レーベルからのデビュー作『スウィート・リベンジ』でカミソリの刃のように研ぎ澄まされたポップ・パンク。サウンドに磨きをかけていたニュージャージー出身のマイ・ケミカル・ロマンスは、次作に向けてより大きなものを目指していた。
自身のバンドを「死んだ」と宣言し、ジェラルド・ウェイをはじめとするバンド・メンバーたちは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を彷彿とさせる黒ずくめのマーチング用ユニフォームに身を固め(オスカー・ワイルドよりもティム・バートンに傾倒したザ・リバティーンズを想像するといいだろう)、ザ・ブラック・パレードという新バンドとして甦ったのである。
その結果出来たこのアルバムは、(「ザ・ブラック・パレード」と呼ばれる)死が迎えに来た主人公の「ザ・ペイシャント(患者)」の視点から曲が作られ、数十年前に最も野心的な音楽を作っていたアーティストたち(クイーンやピンク・フロイド)から影響を受けている。その一方で、彼ら世代の何百万もの人が共感するものを描こうとしている。
だが、このアルバムは単なる音楽だけではない。『ザ・ブラック・パレード』のパワーを本当に理解するには、アルバムが発売された2006年当時の記憶を呼び起こさなければならない。彼らの前世代のヤンキーたちと同じように、いわゆるエモは大衆メディアの中で非難される存在だった。事実無根の非難による大騒動を決してためらうことなく、『デイリー・メール』紙は当時「親が注意すべきエモ・カルト」というタイトルの文章を掲載している。エモのジャンルは「絶望、自傷行為、自殺で特徴づけられる」と述べ、その感覚に疑念を抱いていない。後に、同紙はマイ・ケミカル・ロマンスについて「自殺を助長するカルト・バンド」というレッテルを貼っている。
だが、マイ・ケミカル・ロマンスのファンは皆、『ザ・ブラック・パレード』が死についてというよりは、人生や生き延びることについてだということを分かっている。病院で生きることにしがみついている患者であろうとも、その日その日を何とか乗り越えようと努力している学校の子供たちであろうとも。同アルバムは、希望、慰め、そして共感を与え、内向的な者、はみ出し者、そして一般のリキッド・アイライナー愛好者の世代を奮い立たせることになった。
だが、同作がこの世代の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』となったのは、それが理由ではない。 ジャンルの垣根を取っ払ったアルバムだからだ。そして、すべての人にわかりやすくしたハイ・コンセプトのアートだからだ。
アルバムとはリスナーにとって掘り下げて考え、慰めを求め、その中に目的を見つけることで、傑作として完成して、定着していく。『ザ・ブラック・パレード』の行進が再び始まる。長く続くであろう行進が。
アルバムのiTunesでのダウンロードはこちらから。
リリースの詳細は以下の通り。
マイ・ケミカル・ロマンス | My Chemical Romance
「ザ・ブラック・パレード」10周年記念盤
『ザ・ブラック・パレード:リヴィング・ウィズ・ゴースツ』(“The Black Parade: Living With Ghosts”)
9月23日(金) 全世界同時発売
品番:WPCR-17512/3(2CD) / 価格:¥2,800+税
DISK1
1. The End / ジ・エンド
2. Dead! / デッド!
3. This Is How I Disappear / ディス・イズ・ハウ・アイ・ディスアピア
4. The Sharpest Lives / ザ・シャーペスト・ライヴズ
5. Welcome to the Black Parade / ウェルカム・トゥ・ザ・ブラック・パレード
6. I Don’t Love You / アイ・ドント・ラヴ・ユー
7. House of Wolves / ハウス・オブ・ウルヴズ
8. Cancer / キャンサー
9. Mama / ママ
10. Sleep / スリープ
11. Teenagers / ティーンエイジャーズ
12. Disenchanted / ディスエンチャンテッド
13. Famous Last Words / フェイマス・ラスト・ワーズ
14. Heaven Help Us / ヘヴン・ヘルプ・アス *日本盤ボーナス・トラック
DISK2
1. The Five of Us Are Dying (rough mix)* / ザ・ファイヴ・オブ・アス・アー・ダイイング(ラフ・ミックス)
2. Kill All Your Friends (live demo) / キル・オール・ユア・フレンズ(ライブ・デモ)
3. Party At The End Of The World (live demo) / パーティー・アット・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド(ライブ・デモ)*初収録化音源
4. Mama (live demo) / ママ(ライブ・デモ)
5. My Way Home Is Through You (live demo) / マイ・ウェイ・ホーム・イズ・スルー・ユー(ライブ・デモ)*初収録化音源
6. Not That Kind Of Girl (live demo) / ノット・ザット・カインド・オブ・ガール(ライブ・デモ)*初収録化音源
7. House of Wolves, Version 1 (live demo) / ハウス・オブ・ウルヴズ、ヴァージョン・ワン(ライブ・デモ)
8. House of Wolves, Version 2 (live demo) / ハウス・オブ・ウルヴズ、ヴァージョン・ツー(ライブ・デモ)
9. Emily (rough mix)* / エミリー(ラフ・ミックス)*初収録化音源
10. Disenchanted (live demo) / ディスエンチャンテッド(ライブ・デモ)
11. All The Angels (live demo) / オール・ジ・エンジェルズ(ライブ・デモ)*初収録化音源
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