
Photo: Press/Apple Corps
ジャイルズ・マーティンは新たなディスクが追加され、ドキュメンタリー・シリーズも配信される『アンソロジー・コレクション』に新たな生命を吹き込んだことについて『NME』のインタヴューで語っている。
ザ・ビートルズは1995年11月にポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターがジェフ・リンと共に取り組んだ、ジョン・レノン死後初となる新曲“Real Love”、“Free As A Bird”と共に全8話のドキュメンタリーと第1弾アルバム『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』をリリースしている。
その後、アルバムについては『ザ・ビートルズ・アンソロジー2』と『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』が1996年にリリースされている。
今回、ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:アンソロジー』はアップル・コアとピーター・ジャクソンのパーク・ロード・ポストによってリマスター/修復され、新たな第9話が追加されて配信されることが決定している。
ジョージ・マーティンがキュレーションを手掛けていた3枚の2枚組アルバム『アンソロジー・コレクション』は息子のジャイルズ・マーティンがリマスターする形でリイシューされており、新たに追加された『アンソロジー4』にはデモやセッション音源など13の未発表トラックが収録されている。
新たにリマスター/修復されたドキュメンタリーについてジャイルズ・マーティンは音質と画質が大幅に向上しており、よりザ・ビートルズとの一体感が感じられると述べている。
「こうしたドキュメンタリーが最初に公開されたのはビデオ撮影が行われていた90年代でした」とジャイルズ・マーティンは説明している。「ピーター・ジャクソンのチームはなんだって修復することができます。時代を経たことの恩恵は素晴らしいものです。最初の『アンソロジー』が出るまではザ・ビートルズについて語る人はあまりいませんでした。あれがきっかけとなって様々なことが起こったのです」
「父が私を参加させてくれたのですが、父でさえも当時、1970年以降はザ・ビートルズに関する仕事をしていなかったと言っていました」
ジャイルズ・マーティンは2021年公開のドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:ゲット・バック』で新しいテクノロジーを使ったことで、ザ・ビートルズに関する様々な映像や音源を修復/リミックスできるようになったと説明している。
「そのサウンドは素晴らしいものです」とジャイルズ・マーティンは語っている。「シェア・スタジアムやワシントン公演の違いはすごいものでした。マーティン・スコセッシが手掛けた『ビートルズ’64』で少し聴くことができます。私がミックスをやっていたんですが、何のためものか知らなかったんですよね。でも、今じゃ聴けるものになった。シェア・スタジアムは本当にラフな素材でしたから、面白いですよね。ドラムが聴こえなかったんですが、それを修復できるようになったのです」
ジャイルズ・マーティンはインタヴューでファブ・フォーの4人と同じ部屋にいる感覚を再現すること、AIの可能性と限界、サム・メンデス監督が手掛ける伝記映画、ザ・ビートルズの残されている素材について語っている。
――こんにちは、ジャイルズ・マーティン。今回の新しい『アンソロジー』プロジェクトで触れられるものを教えてもらえますか?
「このインタヴューの前に修正を施すために『アンソロジー』を聴き返していたんです。すべてのプロセスで素晴らしかったのは、アルバムも、ドキュメンタリーも、ザ・ビートルズの彼らも本当に人間らしいことが伝わってくるんですよね。4人の仲間なんです。今はマーケティングとか、TikTokとか、再解釈とか、チーム制のソングライティングとか、いわゆる音楽業界がかつては小川だった激流を突破しようと巨大なつまらないことの繰り返しになっていることに気付かされました。ザ・ビートルズは基本的に曲を思いついて、歌って、レコーディングして、リリースしていただけです。スケールは大きかったですが、本質的にはそれだけなんです」
「キュレーションしてミックスしたんですが、そこに気付かされましたね。4人が一つの部屋にいた、それだけなんです。それが『アンソロジー』のすべてなんです」
――新たに追加されたドキュメンタリーの9話では90年代に残されたメンバーが一緒にレコーディングを行う未発表映像が多く使われています。初めて観た時、どんな印象を受けましたか?
「当時と較べて変わったのは編集的な視点ですよね。父と共に気付かされたんです。私が子どもだった頃、ザ・ビートルズという単語は我が家ではよくない言葉でした。父が昔にやったことで、今のことではなく、そのことについてあまり語りたがりませんでした。もちろん、歳を取るにつれて語ってくれるようになったんですけどね」
「ポール・マッカートニーも、リンゴ・スターも、遺族も、人生で成し遂げた最高のことであるのは分かっているでしょう。ポール・マッカートニーは私が会った中でも最も野心的で、才能のある人物の一人で、地球上で最も才能のある人物の一人ですが、彼でさえも自身が書いた最高の楽曲はザ・ビートルズのものであることを認めるでしょうし、これまでに組んだ最高のバンドはザ・ビートルズであることを認めるでしょう。90年代当時はおそらくそういうステージではなかったんじゃないかと思います」
「ジョージ・ハリスンはそういう段階にあったかもしれません。しかし、意見の相違があって、今になってこうした未発表映像が出てくることになった。ザ・ビートルズのファンにとっては未発表映像を観られることはいつだって魅力的なことだと思いますけどね」
――ドキュメンタリーの9話から伝わってくるのは、どういうものですか?
「ピーター・ジャクソンとも話をしたほうがいいと思いますが、すごくまとまることになったんですよね。このプロジェクトに取り組んでいて、自分の知っているザ・ビートルズとは違うザ・ビートルズを観てきました。特にポール・マッカートニーとリンゴ・スターですよね。彼らは話したがらないかもしれませんが、その点で9話はあたたかいものとなっています。昔は競争心がありましたが、今はだいぶ落ち着きました。90年代後半にザ・ビートルズの一員であったというのはどんなことなのか、垣間見えるものになっています」
――あの奇妙な仲間意識、メンバーが今も一緒である感じというのはこの作品にも残っているということですか?
「もちろんです。メンバー全員の家族が関わっていますしね。ショーン・オノ・レノンは本当に頭が良くて、バイアスのかかっていない仕事をしてくれています。私の父は『結婚式の写真を見る時、最初に探すのは自分自身だ』とよく言っていたんですが、そういうものですよね。みんなそうですし、それに気づかなければいけない。ジョン・レノンとジョージ・ハリスンがいない今、それはより難しいことです。でも、同時にポール・マッカートニーとリンゴ・スターは今は昔よりもしっかりと話をしてくれます。それは全員を代弁するものになっています」
「“Now And Then”でストリングスのアレンジをやった時もロサンゼルスでポール・マッカートニーが『ジョージ・ハリスンのギターをもって聴こえるようにしてくれないか? 彼がそうしたがっていたと思うから』と言ってくれました。今となっては変わって、ドキュメンタリーの9話では仲間を惜しむ面が描かれています。非常に感慨深いものです」
――新たな音楽リリースである『アンソロジー4』には13曲の未発表トラックが収録されていますが、これらの音源に惹かれたのはどういった部分でしたか?
「私はいわゆるビートルズ狂ではありません。一人の音楽ファンとして見ようとしています。心がけているのは、もしあの日、セッションの場にいたらどんな感じだっただろうと、人々に感じてもらうことです。個人的には会話を聴いて、それを歌と繋げていくのが好きです。プロセスやありのままの才能を見られるというのが重要だと思います。才能に近づけば近づくほど理解できるようになるのです」
「よくない時でも素晴らしいんですよね、彼らはそれを笑ったりしています。その関係性や儚さも聴こえてくるのです。“In My Life”のテイク1が収録されていますが、本当に美しいんです。デモやライヴ演奏の即時性には特別なものがあります。洗練されたミックスにしようとは思いませんでした。できるだけありのままに聴かせたかったのです」
――ザ・ビートルズのカタログでまだやっていない中でやりたいことはありますか?
「ずっと『ラバー・ソウル』のミックスをしてほしいというリクエストは受けています。人はどうしても近づけないものに近づきたがるものです。私もできるだけみなさんに近づいてもらおうと思って、やっています。でも、何をお届けするかについては常に慎重な気持ちを持っています。『アンソロジー4』を聴いて、私は楽しめましたが、アーティストであって、セールスパーソンではありません。“Now And Then”は非常に感動的な曲で、妹にミュージック・ビデオを見せたら、泣き始めたんですよね。ここがポイントです。ザ・ビートルズでつまらないものを作るのではなく、どれだけ気持ちを注げるかが重要だと思います」
「人々が求めているものもあります。27分間の“Helter Skelter”は求められていますよね。父が生きていた時、ハリウッド・ボウルのライヴ(※音質に苦労したことで知られる)をミキシングしていた時のことを覚えています。父は『ああ、なんでこんなことをするんだ?』と言っていました」
――“Now And Then”と言えば、あの曲を世に送り出す上でのAIの役割が大きく誤解されていたように思います。
「それはポール・マッカートニーが『AIによるザ・ビートルズの曲をやったんだ』と言ったからです。私たちはやっていないんですけどね。しかし、あれは後で笑い話になりました。あの時は修復型AIとコンストラクティヴAIの違いを示すために、ケーキを食べる動画を作りました。『ゲット・バック』でも『リボルバー』でも同じプロセスが使われています。音の要素を取り出して、他のものを消すためのものです。別のものを合成したりはしていないのですが、それでできることには驚きました。最初はリンゴ・スターのドラムがほとんど聴こえなかったのですが、バス・ドラムまで取り出すことができたんです。隣の部屋で鳴らされているような感じとも言えますが、表面の土を払って、その下にあるものを見つけるような感じでした」
「こういうものには注意が必要です。80年代や90年代に行われたデジタル修復はどれも自分にはひどいサウンドでしたからね」
――ザ・ビートルズの過去の音源でAIを使って解明したいものはありますか?
「何かが発見されるというのは不思議なものですが、将来的には彼らのライブパフォーマンスを多次元的に再現するような体験ができるでしょう。ABBAの『ヴォヤージュ』の話をしているわけではありませんが、テープに録音されたものを『目の前』で演奏しているように聴こえるようにすることはできるでしょう。ロン・ハワード監督の映画ではまさにそれをやろうとしていたのですが、当時は技術がありませんでした。最終的にザ・ビートルズのコンサートとはどんなものだったのか知りたいです。でも、もちろん、ザ・ビートルズのコンサートはひどい音だったでしょうけどね」
「『アンソロジー』とワシントン・コロシアムをやった時はジョン・レノンの声を分離できました。それは不思議なものでした。誰も彼のソロの声を知らないからです。それは明らかだと思いますからね」
「オノ・ヨーコがかつて私に言ったのは『ジョン・レノンについては今は声しかない』ということでした。父が亡くなって、声だけになったことも忘れられません。もし人々がそれを経験することができれば、それは彼らの望んでいたことでしょう。人々の心に触れるということです」
――それ以外にファンのためにアーカイヴで残っているものはありますか?
「ほとんどありません。やり終えたと思います。それが答えです。『アンソロジー』の再発は素晴らしい兆候かもしれません。50年、60年経っても求められているのです。私は『ぜひアルバムを聴いて下さい』と言いますけどね」
――サム・メンデスの伝記映画もありますが、バンドを深く研究してきたあなたから、俳優たちに彼らの真のエッセンスを捉えるためのアドバイスはありますか?
「実は俳優たちともやりとりをしていて、素晴らしい仕事をしてくれています。言えるのはそれだけです。脚本は平凡とは程遠い、勇敢な素晴らしいものになっています。今は撮影2日目という感じですかね。俳優たちは素晴らしいので、アドバイスはないですが、ニュアンスや聴いてきたものを伝えています」
――バリー・コーガンが父親のリンゴ・スターを演じることについてザック・スターキーにも同じ質問をしました。彼はゴムの鼻を買えと言っていましたが……。
「まさにザック・スターキーらしいコメントだね。皮肉屋のスターキーだね」
Copyright © 2025 NME Networks Media Limited. NME is a registered trademark of NME Networks Media Limited being used under licence.



