50周年を記念して歴史的名作『ジョンの魂』のアルティメイト・コレクションが発売されることを記念して、NME Japanでは昨年12月に『NME』に掲載されたジョン・レノンのソロ・アルバム・ランキングをお届けします。1968年から1969年にリリースされた『未完成作品』3作を含むアルバムのランキングで、その偉大なキャリアを振り返ってみてください。
本当に奇妙な日々だ。12月8日はロック・ファンのカレンダーでは常に厳粛な日だ。特に2020年はそうだった。ジョン・レノンの不条理な死から40年となる節目だった。それはニューヨークの冬の寒い日にダコタ・アパートの外で失われた命を振り返るだけでなく、ジョン・レノンが残した音楽の偉大さを敬う日となっている。カルチャーを築くことになったザ・ビートルズの作品を超えて、ジョン・レノンのソロ・アルバムはアヴァンギャルドな実験性から至福のポップネスまで様々なスタイルでどれも剥き出しの感情が露わとなり、政治的な非難、家族に捧げた愛らしい歌、経験してきた痛みへの本能の叫びが描かれる。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコは(1973年から74年にわたる「失われた週末」はあったものの)切っても切り離せない関係かもしれないが、ストリーミング時代にジョン・レノンの作品をより公平に評価するにあたって、オノ・ヨーコの貢献は考えず、ジョン・レノンの作曲のクオリティに絞ってアルバムをランキングにしてみた。今回は死後にリリースされた『ミルク・アンド・ハニー』にもチャンスを与えてみよう。
11位『未完成作品第2番 ライフ・ウィズ・ザ・ライオンズ』1969年
「これは“Cambridge, 1969”という作品です。(叫び)」。ジョン・レノンとオノ・ヨーコは『未完成作品』の3部作をフルクサスの作品に影響を受けたアヴァンギャルドな即興の音楽作品として2人の暮らしをそのまま体現するサウンドにしようとした。そして、リスナーにもそれぞれの音楽を想像させようとした。2作品目となった本作は難解かつ不穏な作品となっている。冒頭を飾る26分31秒の“Cambridge, 1969”はケンブリッジでジョン・レノンのギターのフィードバックに乗せてオノ・ヨーコがわめくものとなっている。その後の曲はクイーン・シャルロット病院のオノ・ヨーコのベッドサイドでカセットに録音されたもので、流産になった未出生時の鼓動も録音されている。彼らは自分たちの新聞記事を歌い上げ、電話をかけ、ラジオのダイヤルをいじくっている。アルバム・ジャケットの裏にはザ・ビートルズのプロデューサーのジョージ・マーティンによる「ノー・コメント」という率直な発言が掲載されている。
10位『未完成作品第3番 ウェディング・アルバム』1969年
病院から結婚生活の寝室へ。冒頭の20分を超える“John & Yoko”でジョン・レノンとオノ・ヨーコは自分たちの心音の上でお互いの名前を囁き、叫び、あえいでいる。おそらく同曲はリスナーに自分たちの性生活が性交後までを含めてどれだけ非精神的になものであるかを感じさせるためのものだろう。1969年の結婚式のお祝いは続く曲の“Amsterdam”で締めくくられる。この曲はアムステルダム・ヒルトンで行われた平和のためのベッドインで録音されたもので、その中で少なくとも1~2曲が披露されている。ジョン・レノンはブルースの即興を弾いて、“Good Night”をアカペラで歌い、オノ・ヨーコも平和のための歌を歌う。それらはベッドから行われたインタヴューや会話に彩られている。
9位『未完成作品第1番 トゥー・ヴァージンズ』1968年
3作とも予備的な作品として音楽的には同等だが、『トゥー・ヴァージンズ』は即興のアヴァンギャルドなサウンド・エフェクト、ピアノの連打やトリル、トゥワング、物悲しい音など、ジョンとヨーコがサウンドで戯れるものとなっている。それは妻のシンシアの下を離れて、夜明けに初めて関係を持った時のものだった。マッチング・アプリのヒンジでの交際など興味はないかもしれないが、これは音楽に揺さぶられた愛が成就した瞬間として伝説的な2人の性的/音楽的関係の歴史的な記録として知られている。
8位『ロックン・ロール』1975年
契約上の義務としては少なくともジョン・レノンは『ロックン・ロール』にすべてを注いでいる。ザ・ビートルズの“Come Together”でチャック・ベリーの“You Can’t Catch Me”のラインを使い過ぎていた法的問題を解決させるためにこのアルバムはレコーディングされた(法定外の示談の一環でジョン・レノンは出版権者のモリス・レヴィが所有する曲を3曲カヴァーする必要があった)。ジョン・レノンはティーンエイジャーの時に影響を受けたロックンロールの黄金時代の曲でアルバムを作ろうというアイディアを採用している。“Be-Bop-A-Lula”、“Sweet Little Sixteen”、“Peggy Sue”などなど、多くの酔っ払った仲間たちとロサンゼルスで熱意あるレコーディングを行っている。その結果は生々しく、エネルギーに満ちた、まさに50年代らしい内容となっている。70年代のロサンゼルスにキャヴァーン・クラブがわすかに復活したのだ。
7位『ミルク・アンド・ハニー』1984年
1980年発表の『ダブル・ファンタジー』のためにレコーディングされた進行中の作品とデモを死後にまとめた作品である『ミルク・アンド・ハニー』は骨董品以下の扱いを受けることも多いが、ジョン・レノンの曲の核では常に魔法が起きていて、その6曲は例外なしとなっている。“I’m Stepping Out”と“I Don’t Wanna Face It”は、生きていたら彼が1980年代にやっていたかもしれない、艷やかなレトロのロックンロールの系譜にあるさっぱりとしたロック・ナンバーとなっている。“Borrowed Time”は彼なりの“Ob-La-Di, Ob-La-Da”であり、熱のある“Nobody Told Me”は死から4年後に生を受けることになった彼の最高のソロ曲の一つとなっている。
6位『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』1972年
十分にくつろいだ彼らは世界に変化を求めている。1972年の『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』でジョンとヨーコはあなたの顔にめがけて急進的な政治的見解を叫んでいる。“John Sinclair”ではスライド・ギターに乗せてドラッグに関する法律を非難し、“Sunday Bloody Sunday”では1972年の血の日曜日事件に言及し、“Woman is the Nigger of the World”では幸運にもツイッターのなかった時代に物議を醸す形でフェミニズムを擁護している。ファンク、ざらついたロックンロール、トラッド・フォーク、カントリーなど、ヨーコが初めて前面に出た楽曲もあり、『イマジン』に続く作品でありながら慣例に囚われずにたくさんのライヴ音源も付属した作品となったが、そこにはやっぱり彼ならではの回顧的な愛らしさで溢れている。例えば、素敵な“Angela”は彼による最高のソロ・バラッドの一つとなっている。
5位『心の壁、愛の橋』1974年
彼らは距離を取っていた。ジョンの「失われた週末」に制作されたのでヨーコはおらず、ロサンゼルスでのアルコールにまみれたリンゴ・スターとハリー・ニルソンとのセッションでレコーディングされた本作は“Nobody Loves You (When You’re Down And Out)”や“Scared”、“Old Dirt Road”など、自己憐憫に満ちている。ジョン・レノンのダウンビート、ブルースっぽさ、気取った態度、なんて悲しいんだという不安定な心境、アルバムはそうしたものだけになる可能性もあったが、騒々しいロードハウス・ファンクである“What You Got’ and ‘Beef Jerky”、そして、エルトン・ジョン参加の“Whatever Gets You Thru the Night”とソロの傑作“#9 Dream”という2曲の傑作シングルで、アルバムは劇的に明るくなっている。これらの曲は18ヶ月の酒浸りにふさわしい幻覚的な雰囲気を与えている。どん底の生活と華々しさが一つの回想の中に滲んでいる。
4位『ダブル・ファンタジー』1980年
彼の1970年代中盤の作品が争いに満ちていたとして、彼の5年間の主夫生活は彼に幸せを与えたのだろう。1980年発表の復帰作は落ち着いた安らぎのある償いと解放に満ちている。“(Just Like) Starting Over”文字通りの再生であるだけでなく、修辞的な意味でもそうで、1959年にザ・ビートルズがジョニー&ザ・ムーンドッグスだった時代を真似したクラシックなクルーン・チューンにはエレクトリック・ライト・オーケストラの輝きが与えられている。“Cleanup Time”や“I’m Losing You”といったなめらかなファンク・ブルースは“How Do You Sleep?”や“Glass Onion”同様、彼には合っていないように見えるが、“Watching The Wheels”と“Woman”には悲しくことにもうその恩恵を得ることができない不思議な復活感が漂っている。
3位『マインド・ゲームス』1973年
『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ』の政治性はファンを遠ざけ、FBIの関心を呼ぶことになり、彼の移民申請についても問題がつきまとうこととなった。そのため、ジョン・レノンは情緒的なソングライティングへと戻ることとなり、解放を求めるレゲエ・アンセム“Bring On The Lucie (Freda Peeple)”を書いている。“One Day (At A Time)”と“Mind Games”といったジャジーなミュージック・ホール風のナンバーでは広がる夫婦の亀裂を掘り下げている。グラム風の“Only People”や“I Know (I Know)”にはそれ以降ジョン・レノンがあまり見せることのなかったザ・ビートルらしい活気に溢れている。
2位『イマジン』1971年
タイトル・トラックが数十年にわたってヒッピーの感傷的な理想の典型として掲げられてきたのは分かっているが、年配の女性も好むこの憂いのあるピアノ・バラッドで宗教や消費主義、国境、憎悪の終焉を1971年に提唱することは極めてラディカルで、過大評価されるということはなかった。オーケストラに彩られたこの感傷的なトラックで歌われる言葉を評価してみよう。そして、それを超えて純粋にソングライティングの強度という点において『イマジン』はジョン・レノンの最も強靭なソロ曲のコレクションとなっている。“Gimme Some Truth”は最もキャッチーな政治的演説となっていて、“Oh My Love”と“Jealous Guy”は最も軽やかなバラードであり、“How Do You Sleep?”はポール・マッカートニーに対して最も悪意のある楽曲となった。“I Don’t Wanna Be A Soldier, Mama”は20年も前にトリップ・ホップを発明したようなサウンドになっている。
1位『ジョンの魂』1970年
『トゥー・ヴァージンズ』のアルバム・ジャケットですべてをさらけ出したジョン・レノンだが、ジョン・レノンの最初のソロ・アルバムは間違いなく「真の意味」で最も赤裸々な内容となっている。アーサー・ヤノフ博士によるプライマル・スクリーム療法を受けた結果、ジョン・レノンは正面から問題と向き合い、史上最高に残酷なほど正直なアルバムとなっている。
“Mother”は聴くのがつらくなるほどに母親の死と父親の不在に対するジョン・レノンの最深部の感情を解剖するものとなっている。“God”では鋼のような精度でもって人類が必要とする文化的・精神的偶像を解体している。“Isolation”はマンションのバルコニーから助けを求める叫びであり、“Working Class Hero”と“I Found Out”は根深い社会構造とそれを拒否するにやけ顔のヒッピーの夢の両方を痛烈に非難するものとなっている。オルタモントの悲劇と並んで60年代を終わらせることになった作品であり、史上最も美しい生身のアルバムとなっている。
リリース概要
ジョン・レノン『ジョンの魂』
①スーパー・デラックス・エディション(6CD + 2ブルーレイ収録)<輸入国内盤仕様/完全生産限定盤>
UICY-79517
価格:17,600円(税込)
・6枚のCD
・2枚のブルーレイにはステレオ、5.1サラウンド、ドルビー・アトモスのHDオーディオ収録
・ブルーレイ 2にのみ収録の音源もあり
・132ページの豪華ブックレット付
・「WAR IS OVER (IF YOU WANT IT)」ポスター付
・2枚のポストカード付
②2CD
UICY-79529/30
価格:3,960円(税込)
・スリップ・ケース入り限定盤
・20ページのブックレット付
・「WAR IS OVER (IF YOU WANT IT)」ポスター付
③1CD
UICY-15983
価格:2,750円(税込)
・20ページのブックレット付
<日本盤のみ>
SHM-CD仕様
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
④2LP<直輸入盤仕様/完全生産盤>
UIJY-75192/3
価格:8,360円(税込)
・ハーフスピード・マスタリング
・180gヴィニール
・8ページのブックレット付
・「WAR IS OVER (IF YOU WANT IT)」ポスター付
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付
⑤デジタル
更なる詳細は以下のサイトで御確認ください。
https://store.universal-music.co.jp/artist/john-lennon/
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