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現在のポップ・ミュージック界においてこの人ほど愛されている男性アーティストはいないかもしれない。珠玉の名曲“Thinking Out Loud”で第58回グラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞したのを挙げるまでもなく、テイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバー、ワン・ダイレクションなどのアーティストに楽曲を提供し、一方でエルトン・ジョンやエリック・クラプトンといった大御所からは多大なる寵愛を受け、ノエル・ギャラガーのような御意見番も認めざるを得ない存在となり、ストリーミング・サービスでは数々の記録を塗り替えている。今、エド・シーランほど理想的なポジションにいるアーティストもいないのではないか。では、彼はどうして今の地位を確立することができたのか。その理由が最もダイレクトに伝わってくるのがライヴだ。明日となったエド・シーラン来日公演のチケット一般発売に合わせて、 ここでは6月22日にロンドンのO2アリーナのオープンから10周年を記念して開催されたライヴのレポートをお届けしたい。

この日のオープニング・アクトは、エド・シーランがコラボレーションも行っているガーナをルーツに持つアーティストのフューズODG。彼がエド・シーラン・コールを織り交ぜて観客を盛り上げるなか、ついにエド・シーランがアコースティック・ギターを手に上手から登場する。この日も胸にはイギリスのサーフ・ブランド「HOAX」のロゴが描かれている。なにか特別な演出があるというわけではない。でも、もちろんのこと、場内はすさまじい大歓声に包まれる。そして、まず驚かされるのはステージの小ささだ。この日の公演ではステージ上部に5面の映像スクリーンが吊り下げられ、地味な印象はないのだが、これまで何度かO2アリーナでライヴを観てきたけれど、それと較べると、こぢんまりと収まっている。そんな小さなステージで、ほぼ全編1人にもかかわらず、この大観衆を沸かすことができる。その自信はこれまでのキャリアの積み重ねがあるからこそだ。

1曲目は最新作『÷(ディバイド)』から最初に公開された楽曲の一つとなった“Castle on the Hill”。サビはもちろん観客のシンガロングに迎えられる。2曲目はエド・シーランのライヴの醍醐味でもあるリアルタイムでのループが堪能できる“Eraiser”。最新作のツアーを重ねてきたこともあってラップのパートもキレが素晴らしい。3曲目はキャリアの門出となった楽曲“A-Team”で、こちらはほぼ全編を観客がシンガロングしている。日本では観客によるシンガロングへの賛否があるけれど、この日エドもMCの中でどの曲もシンガロングしてほしいと語っていて、ぜひ秋の来日公演に訪れる方にはシンガロングしてほしいと思う。UKでライヴを観ていて強く印象づけられるのはポップ・ミュージックというのはアーティストのものである同時に、自分たち観客のものであるという強い意識だ。“A-Team”では会場中のスマートフォンが光り、コール&レスポンスも行われる。エド・シーランは休養期間中に日本に1ヶ月近く滞在したことが報じられているが、日本の街並みなどを描いたステージ後ろの映像にも目を引かれる。

大ヒット曲“Don’t”でアリーナの温度を上げ、セカンド・アルバム『X(マルティプライ)』からの大人気曲“Bloodstream”、最新作からの最新シングルとなる“Galway Girl”、エド・シーランのライヴでは定番となっているニーナ・シモンの“Feeling Good”のカヴァーから映画『ホビット 竜に奪われた王国』のエンド・ロールに提供された“I See Fire”の流れと見逃せない展開が続いていく。でも、そのなかで気になったのはエド・シーランのギター・スタイルだ。エド・シーランが使っているギターはマーティン社のリトルマーティンLX1Eというモデルで、マーティンと言えば、敬愛するエリック・クラプトンを初め、ジョン・メイヤーなど数々のギタリストのシグネチャー・モデルを製作してきたことで知られる。でも、エド・シーランのギター・スタイルというのはそうした先達とはだいぶ異なる。アルペジオやソロといった繊細のプレイは少なく、そのほとんどは力強いコード・ストロークだ。そして、それをリアルタイムでループにして、観客との交感を加えながら、どんどんと情報量を上げていく。そのスタイルはインターネット/ソーシャル・メディア的でもあるし、グランジ的でもある。そして、アコースティック・ギターをパーカッションのように使うプレイも含めて、小さい筐体ながら力強い音を可能にしているのがマーティンのギターだったりする。

もちろん、“Photograph”や“Thinking Out Loud”、“Sing”といったキャリアを彩ってきた名曲も演奏される。詳しくは書かないけれど、素晴らしい演出が用意されているし、なによりエド・シーランのライヴは観客と作られていくライヴだ。ライヴの終盤を迎えた頃にはO2アリーナはお祭り騒ぎとでもいう、とんでもない雰囲気になっている。この日のライヴでも最新ツアーの重要なレパートリーとなっている“Perfect”や“Happier”は演奏されておらず、セットリストも日々変化している。ライヴはこれをやらずには帰れない、世界的大ヒット曲“Shape Of You”とファースト・アルバム『+ / プラス』からのからの“You Need Me, I Don’t Need You”によるアンコールで締めくくられた。

しかし、押しも押されぬ世界的大スターになってからアリーナ・クラスでのライヴを初めて観たけれど、本当にエド・シーランという人は嘘のない人だと思う。もっと正確に言うならば、嘘をつくこともできなかった人なのだ。バンドでもなく、アイドルでもなく、プロダクションにコストをかけられる大御所アーティストでもなく、彼にはアコースティック・ギターとループ・ペダル、そして自身が綴ってきた楽曲たちしかなかった。そのスタイルは今もまったく変わっていない。そして、小さなステージでたった1人ステージに立ちながら、今世界において最も“豪華な”ライヴをやってのける。

この日の3日後に行われたグラストンベリー・フェスティバルでのステージも観ることができたのだが、強いこだわりを持つこのフェスティバルの観客を前に、最初は「すごく緊張してる」と語っていたものの、スティーヴィー・ワンダーのカヴァーなんていうサプライズも披露しつつ、20万人弱が集まるこのフェスティバルで圧巻のステージを披露してみせた。エド・シーランは既に最新作『÷(ディバイド)』の2周目となるワールド・ツアーの日程も発表し始めている。エド・シーランの来日公演に行かれる方はぜひこの貴重な機会を堪能してもらいたいと思う。

6月22日・O2アリーナ・セットリスト

Castle on the Hill
Eraser
The A Team
Don’t / New Man
Bloodstream
Galway Girl
Lego House
Feeling Good / I See Fire
I’m a Mess
Photograph
Nancy Mulligan (with Beoga)
Give Me Love
Thinking Out Loud
Sing
encore:
Shape of You
You Need Me, I Don’t Need You

来日公演の詳細は以下の通り。

エド・シーラン ライヴ・イン・ジャパン 2017

10月25日(水)大阪城ホール
開演19:00(予定)

10月31日(火)日本武道館
開演19:00(予定)

11月1日(水)日本武道館
開演19:00(予定)

チケット:
SS席:¥20,000 / S席:¥12,000 / A席:¥10,000 / B席:¥8,000

更なる公演の詳細は以下のサイトで御確認ください。

http://edsheeran-japantour.com/

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