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サム・スミスは、2014年のデビュー・アルバム『イン・ザ・ロンリー・アワー』で失恋の痛手をドル箱に変えた。先日リリースされたサム・スミス初のジェームズ・ボンドのテーマ曲もUKシングル・チャートのトップを飾っている。即席のスターダムをのし上がったサム・スミスは、そこからどう進んでいくのか、バリー・ニコルソンが聞いた。

お気に入りのジェームズ・ボンドについてなら、語りたいことはたくさんある。クラシックなコネリー派か、イカしたレーゼンビー派か? 太眉のムーア派か、それとももっと華やかではっきりとしたダルトン派? サム・スミスは最近まで、現代的なダニエル・クレイグ派だったようだ。USツアーの最後から2番目の公演を行っているノース・カロライナのローリーから、電話を通して以下のように語っている。「やっぱり最初はお気に入りだったね、僕は23歳だし。古いシリーズは観てなかったし、クレイグが現代風にボンドを解釈してるのが好きだった。でも、遡って全部のボンド映画を観てみたら、自分の好きなのはコネリーかムーアだって分かったよ。とてもエレガントで格好いいところが好きだね。次のボンドはそういう部分が復活するといいな」

クラシックなやり方の良さをたたえ、「スーツを着てステージに立つ」ようなタイプのポップスターであるサム・スミスが、1960年代から80年代の007が持つエレガントで洗練された佇まいを称賛するのは当たり前のことだ。さっと掃くようなジョン・バリー風の要素と『007 スペクター』の主題歌“Writing’s On The Wall”が持つドラマチックな運びを聴けば、その当時に戻ったような感覚を覚える。やはり、ブックメーカーの有力候補だっただけのことはある。

「サム(・メンデス監督)とバーバラ(・ブロッコリ、プロデューサー)と初めて打ち合わせをした時、正真正銘のクラシックで、時代を超えたものを作りたいという気持ちだったんだ」。今月、ジェームズ・ボンドのテーマ曲として初めてチャート1位を獲った曲について、サム・スミスは語っている。サムは他のボンド曲にいかにラヴソングが多いか、そして映画にとっての根源的なテーマとしての愛について話していた。「僕はラヴソングを書いてるんだ。僕はラヴソング専門なんだよ。自分の強みを生かして演奏できる曲だと思った。だからラヴソングの大作を作ろうと思い立ったのさ」。ジェームズ・ボンドのテーマ曲を担当する50年ぶりのイギリスのソロ・アーティストとして、ここ何年かの年はサム・スミスにとって素晴らしいものとなっている。ポップ・ミュージックの寵児として、片方ではディスクロージャーやノーティー・ボーイとのコラボレーションを行いながらの話である。『イン・ザ・ロンリー・アワー』の総売上は世界で850万枚(アメリカだけで200万枚)、4枚のシングルで1位を獲得し、グラミー賞は4冠、ブリット・アウォーズは3冠を獲得している。

「(ボンドは)これまでとはまったく違うモンスターなんだ。デビュー・アルバムが出る前は、他人がどう思うかなんて気にしてなかった。これは自分のアルバムで、自分が誇りを持っていて、悪い批評なんて絶対に受け取らなかったけど、ボンドのテーマに関しては、音楽史の優れた楽曲と比べられることは避けられないわけだからね」。サム・スミスは、自分の批評を読まないような、繊細な心の持ち主なのだ。「特にイギリスで本当に信じていることは、みんなが僕を批判するために待っているんだろうっていうこと」とサム・スミスは語る。しかし批判の意見が分かれると、「この曲に対する一般の反応は素晴らしいし、1位を獲るっていうのは感動的だね。全員を喜ばせるのは難しいし、誰も彼もが好きになる曲ではないかもしれないけど、それで充分満足だよ。自分でもいい出来だと思ってるんだ」

サム・スミスが“Writing’s On The Wall”で表現したのは、映画の中でジェームズ・ボンドが直面する哀しみの感情だ。「ボンドは血だらけになるし、殴られて、傷つけられる。僕はその弱みの部分を描きたかったんだ」。結局のところ、その弱みというのがサム・スミスの強みだったのかもしれない。サム・スミスは心の傷で曲を書くことのできるアーティストであり、冷静な視点も持っている。サム・スミスは「いろいろな人に曲を届けたい」と話し、『イン・ザ・ロンリー・アワー』を「皆に気に入って欲しい」と言う。そのような衝動はアルバム自体の中で明確だったかもしれない。

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しかし、やはりサム・スミスは典型的な「悲劇のヒーロー」でいることにも違和感はないようだ。「悲しい気分の時に聴いてもらえるアルバムを作る奴でいることには、なんの問題もないよ。3年後には考え方が大きく変わっているかもしれないけど、今は、ワインを飲みながら悲しい気持ちに浸るために僕の曲を聴いてもらってもまったく気にしない。自分の曲が精神的な支えのようなものになって欲しいんだ」

哀愁はサム・スミスの第2の天性だ。「僕は素晴らしい人生を過ごしてきたけど、僕は元々ちょっと悲しい部分があるんだと思う。僕は今までずっと悲しい映画とか、悲しい音楽に惹かれてきたんだ……悲しい時には、ハッピーな時よりもすべてがすごいことのように感じる。僕は傷つきやすくて、繊細な人間なんだよ。何でも考えすぎるんだ。自分の身体に関して、気が狂いそうになるほど自意識過剰だし、それは自分の音楽や人生すべてに対しても当てはまる。自意識があるから、今の僕は地に足をつけていられるんだ。それがなかったら、ちょっと嫌な奴になっていただろうね。自分の暗い部分に感謝してるよ」

悲しみの軸には、寂しさがあるという。サム・スミスはケンブリッジシャーの小さな村、グレート・チズヒルで育ち、愛情深く、協力的な(そして裕福でもある)家族と共に「素晴らしい」子供時代を過ごした。「でも、どこか空虚な感じがしてたよ。他に1人もゲイがいなかったし、僕と同じ考え方を持っている人たちは少なかったからね」。サム・スミスがゲイであることをカミングアウトしたのは10歳の時だが、『イン・ザ・ロンリー・アワー』をリリースする時、公に明らかにした。しかしいまだに、本当の意味での恋人は1人だけ、アメリカのモデルであるジョナサン・ジーゼルだけだという。2人は今年の初めに破局している(サム・スミスは現在、「交際に関する問題」に向き合っているところだという)。

もちろん、『イン・ザ・ロンリー・アワー』に収録された曲の中には、正式に恋人同士ではない関係についても歌われている。今年2月のグラミー賞授賞式では、4回目となった最後の受賞スピーチで、サム・スミスは「このアルバムを捧げた男性」に向けて感謝を述べている。このコメントはカジュアルなものだったが、状況を考えれば大変大きな意味を持っていた。これについて、サム・スミスは誇らしげに次のように語った。「テレビでゲイの男性がこういうことを言ったのは僕が初めてだって書いてある記事を読んだよ。あの行動はインパクトが大きかったと思う。何千万人というアメリカ全体の人々が視聴するテレビで、ゲイであることを新たな“ノーマル”として扱ったんだ。物議を醸す行動だってことは十分理解しているけれど、僕はこれがスタンダードになるよう努めている」

こういった行動を取るという決意は、彼の歌詞にまで浸透している。彼の書く歌詞はすべて性別を特定しない内容になっており、ホイットニー・ヒューストンの“How Will I Know”をカバーした歌詞でも、同じように性別を特定しない内容に変更されている。昨年、サム・スミスはゲイ・コミュニティの代弁者になろうとしてはいないと発言しているが、この発言が、ゲイの人々が直面する問題について公で発言したがらないのだと誤解されたことに「怒りと混乱」を感じているという。

「僕は10歳の時にゲイだとカミングアウトした。そのこと以上に自分の人生で誇れるものはない」とサム・スミスは語っている。「僕が言いたかったのは、自分のアルバムが1つのコミュニティだけじゃなくて、すべてのコミュニティに訴えるものであってほしいってことだ。ゲイでもストレートでも誰でも、僕が男性について歌うことをみんなに理解してほしかった。僕がスティーヴィー・ワンダーやジョン・レジェンドが女の子について歌うのを理解できたのと同じようにね。僕は代弁者になりたい。ゲイ・コミュニティを代表して話す人間になりたいんだ。僕のレコードはゲイが殺されるような国でも売られていて、これは僕にとっては大きな意味があるんだ。その国の人が1人でも、僕のアルバムを手に取って、ゲイのアーティストが作ったってことに気づいてくれれば、それがきっかけで彼らの考えを変えられるかもしれないからね」

「そういった国々で起きている問題に対抗するためのプロジェクトもいくつか進行中だけど、僕は若いし、何でも知っている訳じゃないのはよく分かっている。そういった場所に出向いて、もっとリサーチしたい。そうすれば自分が取り上げている問題を理解できる。それで資金を集めたら、僕が自分の理想とするような代弁者になれると思う」と言って、サム・スミスはこの話を結んだ。

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ダニエル・クレイグは、再びボンド・シリーズをやるなら「手首を切った方がマシ」とまで発言しているので、彼が屈強なボンドを演じるのは最新作『007 スペクター』で見納めとなるようだ。黒人のボンド、もしくはゲイのボンドといった、ストレートの白人男性以外がボンドを演じることに世間の心構えができている、とサム・スミスは考えているのだろうか?という問いに、彼は「黒人のボンドは素晴らしいだろうね。ゲイのボンドに対して世間の心構えができているかは分からないけど、僕のほうは準備万端だよ!」と答えている。

12月にツアーが終わり次第、サム・スミスは休暇を取る予定にしている。よって、『イン・ザ・ロンリー・アワー』の次の作品が発表されるまでには時間がかかりそうだが、徐々に形になりつつあるという。アルバムのタイトルとヴィジュアル・コンセプトは準備ができており、収録予定の新曲は3曲完成したそうだ。「今やっていることで素晴らしいのは、自分の感じているように書いていること。『イン・ザ・ロンリー・アワー』を制作していたときには、アルバムを作るっていうミッションの下、スタジオに1年半入れられていたけど、今回のアルバムでは、自分から湧き出すものがある。自分の感情が終わったり始まったりするときに、曲を作っているよ。すべての気持ち、すべての感情や気持ちは生のままなんだ」

新曲のうち、おそらく“Scars”というタイトルになる1曲は、彼の両親の離婚を題材にした曲となっている。彼は、これが「今まで書いたなかで、最も悲しい曲」だと述べている。そしてもう1曲は、ポップスターとなる男女の容姿について音楽業界の基準に従うときに感じたプレッシャーについての曲だという。

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サム・スミスは、自分のネガティヴなボディ・イメージに幼少期より苦悩しており、ここ1年間でおよそ50ポンド(23kg)も減量したにもかかわらず、「ある程度見栄えを気にしなければいけないというプレッシャーは、いまだに感じる。女性の場合だと、そのプレッシャーは(音楽)業界では凄まじいものだ。これは断ち切らないとね。でも、男性だって同じなんだ。彼らはそれを訴えもしない。僕は声をあげていきたいと思う。痩せたところで、幸せだったり、自分の身体に満足がいったりする訳じゃないからね。メディアのせいでもあるし、自分自身のこうあるべきだという思いのせいでもあるけど、いつも僕の頭の中ではそんなプレッシャーが渦巻いている」と語っている。後に彼はその曲を「今までに書いたなかで、最もハッピーな曲」だと表現するようになった。そして、すぐに「そうだな、少なくとも悲しすぎるっていうことはない」と表現を弱めている。どちらにしても、と切り出したサム・スミスは「僕のファースト・アルバムは『イン・ザ・ロンリー・アワー』というタイトルだったから、皆は次のアルバムでもそれほど楽しげな曲は期待していないだろうね。悲しい曲を書いていると、自分の傷を縫い合わせているような気持ちになる。そうして出来上がった曲はどれも、ハッピーな曲を書いたときよりもずっといいんだ」

いまや世界中の誰もがサム・スミスという名前を知っているかのようだが、彼は黄金の声を持ったポップス界の孤独な男であり続ける。上品にあつらえたタキシードが似合うように、彼にはこの役割が似合っている。

サム・スミス 来日公演情報

11月24日(火) 東京・代々木第一体育館
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:VIP指定席:¥14,000(税込 / グッズ付)、S指定席:¥8,000(税込)※全券種SOLD OUT

11月25日(水) 神戸ワールド記念ホール

OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:VIP指定席:¥14,000(税込 / グッズ付)、S指定席:¥8,000(税込)

神戸公演のチケットはこちらから

チケットぴあ 0570-02-9999 http://t.pia.jp/
ローソンチケット 0570-08-4005 http://l-tike.com/
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