MATT SALACUSE/NME

Photo: MATT SALACUSE/NME

ザ・1975のヴォーカル、マット・ヒーリーは正真正銘のロックスターだ。おちゃらけたように、おもしろいことを言いながらも、75分間のニュー・アルバムで世界の「ニーズ」を彼らは満たしてみせた。ダン・スタッブスがニューヨークで彼に会ってきた。

「ジャン、ジャン、ジャン、ジャーン!」。ザ・1975のフロントマンであるマット・ヒーリーは、彫刻のようなクルクルのヘアスタイルに、レザー・ジャケットとスキニー・デニムを身にまとい、エア・ギターを演奏しながら、マンハッタンのミート・パッキング・ディストリクトにあるレンガの壁のそばでポーズをとってくれた。「ザ・ストロークス! ニューヨーク! インディ・ロックよ、永遠に!」と26歳の彼は叫ぶ。彼は冗談を言っているのだ。マット・ヒーリーと彼のバンド仲間にとって、インディ・ロックは過去のものだ。「終わったんだ」とその後、彼は言った。「ロックンロールには一定のサイクルがある。そのことは知っているけど、今じゃとっくに昔のものだ。時代に逆行していると思われるのが一番怖い」

ザ・1975の音楽にはモットーとするマントラがある。「消費するだけ創り出せ」。これはリスナーが数多くのあらゆる異なったジャンルの音楽を聴く中で、彼らがみんなの目に留まるようなバンドのひとつでいたいという意味がある。「僕たちはこの世代の代表格になりたい」とマット・ヒーリーは話す。「音楽の消費の仕方が一通りでない今、誰もが音楽をあらゆる場所から選んでいる。僕は本当の意味で現代的でいたいんだ」

マット・ヒーリーと彼のバンド仲間である大人しいギタリストのアダム・ハン、社交的なドラマーのジョージ・ダニエル、皮肉混じりでウィットに富んだベーシストのロス・マクドナルドらは『NME』の初の巻頭特集の撮影に応じている。彼らはニューヨークに数日間滞在しており、鮮やかな緑色のケール・スムージーをゴクゴク飲んでいる様子から察するに、ニューヨークの生活に慣れてきたようだ。マット・ヒーリーによると、スムージーは「池のバナナ」のような味がするらしいが、今日1日を終えたあと、「別のタイプのクサ」を吸って新たな1日をスタートするようだ

ジグザグの非常階段の影のもとで最高のインディ・ロックのポーズを取ってもらった10分後、4人は石畳の裏路地を歩く姿を撮影していた。「僕はボブ・ディランだ! ディランと3人の仲間たち!」とマット・ヒーリーが叫ぶ。まだ、ふざけているようだ。その時、かわいらしいフレンチ・ブルドッグを連れた女性が通りかかった。バンド・メンバー全員の興味が犬の方に向けられたので、当面ニューヨークのミュージック・アイコンの身は守られたようだ。

人をからかうというのはザ・1975の得意分野だ。と言うのも、彼らが本気で言っているのかどうか分からないからだ。以前に、4コマ漫画とタイプ打ちされた声明文の他に、2人の人物が「ザ・1975解散?」という見出しのついた『ニヒリスティック・ミュージック・エクスプレッション』という怪しげな雑誌を読むイラストが描かれているファン会報誌のようなものを発行し、ファンにバンドが解散するのではないかと思わせてからかったことがある。

これは単なる冗談だった。その後、“Love Me”という新曲がリリースされ、その曲の中でロックスターであるという自負、この世代が抱えるソーシャルメディア中毒(ジョージ・ダニエルが巨大な自撮り棒を巧みに扱っている)、同世代の人物(ミュージック・ビデオの中でマット・ヒーリーはダンボールで作ったハリー・スタイルズの切り抜きにキスしている)などをからかっている。同時に最高にファンキーな面もあり、デヴィッド・ボウイの“Fame”やトーキング・ヘッズの“Burning Down The House”を非常に魅力的なレベルで彷彿とさせる。

“Love Me”は2月26日リリース予定のアルバムに収録されており、聴けば聴くほど奇妙になってくる。ニュー・アルバムに収録されているボーイズ・バンドらしい“She’s American”はニューヨークのターミナル5で旋風を巻き起こしそうだが、もしかしたら、そうなるべきではないのかもしれない。なぜなら、アメリカ人の女の子がマット・ヒーリーの歯について不満を述べているような歌詞だからだ。他にも、マット・ヒーリーが涙した胸が張り裂けるようなアコースティックの曲“Nana”や、コカイン中毒を題材にしたお決まりのポップソング“UGH!”が収録されている。

ディアンジェロ風のスロージャムのある“If I Believe You”や、インストゥルメンタルだけの“Please Be Naked”も収められている。タイトルトラックは通常、アルバムの代表的な曲から選ばれるものだが、今回は型破りなロック系だ。マット・ヒーリー曰く、「よくわからないけど、シガー・ロスとジョン・ホプキンスが合体したようなアンビエント・ハウス風かな」

それでタイトルはというと? 深呼吸してみよう。『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれにまったく気がついていないから。』。アルバムは75分に及ぶ。少し大げさだと思われるかもしれない。この問いにマット・ヒーリーは笑顔を見せた。「何も考えてないと思われるよりは、大げさだと思われた方がいい。両面性を持つという考えは僕が一番恐れていることだ。クソ野郎と思われるよりはるかに怖い」

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『君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれにまったく気がついていないから。』はバンドが慌ただしかった時期を乗り越えて生まれた作品だ。マクレスフィールドのティーンエイジャーで結成されたバンドは、ロンドンのレーベルや地元の音楽ファンから見向きもされず、マンチェスターの音楽シーンで長い間よそ者扱いを受けてきた。マット・ヒーリーは当時23歳で、中華料理店で働きながら母親(ご存知かと思うが彼の母親は「ルース・ウーマン」のデニース・ウェルチ)と暮らしていた時、マネージャーであるジェイミーが彼らの曲を自費で発売することを決めた。2012年から2013年の間に4曲を発売し、バンドは徐々に熱狂的なファン層を広げていくことになった。突如、マット・ヒーリーは「これらのファンにとってエモの伝道師」となった。

2013年9月にセルフタイトルのデビュー・アルバムをリリースし、翌年29カ国195公演を行った。その時の移動距離は地球6周分以上に相当する。この影響はバンドの精神面や肉体面に現れ、ボストン公演で「愛してる!」と叫んだファンの1人に対して、マット・ヒーリーが「君に僕を愛する権利はないね」と言い放ち、イライラを爆発させる場面もあった。

ロンドンに帰ってきた1年前がバンドを見直す良い機会だった。「順応しようとして少し混乱したんだ……何ていうか型にはまったことにね。ドラッグ、ライフスタイル、それにツアー中の騒々しさと1人でいる時の静けさっていう対極の状況とかにね」とマット・ヒーリーは話す。「1人でいると、ぼーっとして気が抜けちゃうよ」

デビューしてナンバー・ワンを獲得したことはプレッシャーにもなった。共作しているジョージ・ダニエルも、ブラジル滞在中にマットが言う「神経衰弱」に苦しんだ。「僕たちが一番恐れているのは、自分たちが創ったものを利用する能力がないと感じることだ」とマット・ヒーリーは語る。「転機が訪れたのは、くだらないことをすべて忘れた時だ。僕たちが作りたかったアルバムは強い信念と真実に基づいた作品だとすぐに気付いたよ」

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マット・ヒーリーの歌詞にはたくさんの真実が盛り込まれている。“Love Me”でソーシャル・メディア中毒に牙をむいたように、彼の曲はスナップチャットにアレの写真を載せるくらいありのままだ。それが追放されたボーイ・バンド愛好者が大部分を占めるファンと深い絆を築くことにつながっている。ニューヨークの会場に近づくにつれて、開演の数時間前にもかかわらず、数百人の観客が並んでいるのが見えた。2人のファンが、窓ガラスにしっかり色がついていない車の中にバンドの姿を見つけ、我々の後ろから駆け寄ってきた。「車を追いかけちゃダメだ」とシートに身を隠しながらマット・ヒーリーがつぶやいた。「1960年代じゃないんだから」

こうやって書いていると、マット・ヒーリーが語った言葉のいくつかは彼が信じられないくらいのナルシストなのではないかと思わせるが、彼はちゃんと心得て話している。彼には人の心を引き付けたいという欲求がある。「ファンのことは好きだよ。こんなバンドのちゃんとしたファンになるには、僕のことを理解しないとなれないんだから」と、ある時点で彼はこう語っている。「僕のことを理解するのか、疑いを持つならその恩恵が欲しい。あるいは、僕のことを好きになる必要がある。誰かが『そんなの知らない』って言ったら、僕はあからさまに好かれたいと思っているんじゃないかな」

彼は同世代の人々、特に若い有名人たちについて距離を置いて語る。「こういうセレブたちがみんなこぞってお互いに会ったりしているのを見ると、ホントに友だちなのかなって思う」とマット・ヒーリーは述べている。「僕の世代の有名人たちって集まるとすぐに――誰のことを言っているのかは分かるよね――カーラ・デルヴィーニュやカイリー・ジェンナーのような人たちだよ――彼らってみんなグループでかたまってて、何を代表しているのかさっぱり分かんないよ。他人と写真に写りたいだけさ。『スクワッド・ゴールズ』っていうあの言葉、大嫌いだよ」

マット・ヒーリーは、究極のイット・ガールのアレクサ・チャンのことは仲間と認めているようだが、それでもこう話した。「僕はミュージシャンで、社交家がバンドを組むことになったってわけじゃない。これは愛なんだ。音楽という形のね。やりたいからやってるんでさ。有名になるとか、勝手にしろって。僕を燃え立たせてくれるから音楽をやっている。自分の曲作りでそういう瞬間が訪れると、性的欲求みたいだね。この体の内部の情欲みたいに感じる。他の誰かのためではないんだ」

もしかしたら、どこかにシャイな人がいるのかもしれない。「ステージに上がるときは自己防衛が働く」と彼は認めている。「観客の中にはあきれ顔の父親たちの姿もある。だから、僕は終始ピエロでいることにするんだ。僕はマイケル・ハッチェンスでもボノでもないからね」。彼によると、「決して引っ込み思案ではない」が、過剰な称賛のせいで社交的ではなくなったらしい。「僕は別の方向に向かった。内省的で、少しだけ意地っ張りになった。僕は頭の中じゃロックスターじゃないんだ。僕は僕で、どういう人間か知っている」

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これは彼の私生活にも影響したらしい。もし彼の歌詞を信じるなら、オンナ好きで、彼曰く、現代のミダス王だ。「君に本音を打ち明けるのは少し難しいんだけど、もし君が僕の立場だったら女性から好かれるよ」とマット・ヒーリーは話している。

「クソ野郎みたいなことを言うつもりはない――さっき車を追いかける子たちを見ただろ? 彼女たちは事実で、もし自分が大人で、女嫌いでもない進歩主義的な人間なら、最初に考えることは、『よしあの子と一発ヤるか』ってことじゃなくて、『もし彼女とヤろうとすれば、きっとクソ野郎だと思われる。だって、予想通りのことだから』。僕は欲しい物を手に入れたけど、今直面している問題がある。女の子と一緒だと、『ああ、やっぱりそうなんだ』って思われることだ」

マット・ヒーリーの歌詞には一抹の不安と自己批判が含まれている。ニュー・アルバムのある楽曲の中で彼は、マリファナを吸うには歳を取りすぎているのかと考えている。歌詞が彼の経験に基づいているとしたら、もし彼が自分を素晴らしく魅力的だと思わなくなったら、どうなるだろうかと尋ねてみた。すると、彼はぎこちなく笑ってみせた。

「うーん。参ったな。そんなこと考えたこと一度もなかった。一番怖いことだな」

数時間後、ターミナル5のステージにバンドが登場するとファンはまさに興奮状態だった。彼らのライヴはアリーナ版のミニヴァージョンで、ステージ上には背景幕や明るいピンクが光り、音を立てる5つのタワー型ビデオスクリーンが設置されていた。マット・ヒーリーによると、タンブラーのページをイメージして作ったという。

ステージ上のマット・ヒーリーはイギリス人の気取り屋で、ねじ曲がったリザードキングであり、不安げな兄のようにも見える。前列の観客の押し合いが収まるまで彼が演奏を止めた場面もあった。彼はライヴ中、ほとんど上半身裸だった。マット・ヒーリーのパフォーマンスは、あとで彼が語ったところでは、普通のインディロッカーよりは「もっとロックンロール」していたと言う。「サックスを持って、バカげたパンツを履いて、ドラマーの脚を舐めたら、それってロックンロールじゃないか?」

「僕はこの時代を代表するバンドになりたい」とマット・ヒーリーは話す。「唯一無二のだ。楽器を演奏するバンド4人組。ザ・ストロークスをからかっているのはこのことだよ。僕たちは整っている。4人組で、ギター2人にベースとドラム、それにレザージャケット。細かい話だけどね」

目的は、より多くの人々の心をつかむこと。「自分の芸術を人に届ける気がないなら、アーテイストとしての価値がない」とマットは語る。「インディーズ・バンドのやつらの『周りの評価なんかどうでもよくて、クソみたいな音楽を作ってても何も言われたくないぜ』みたいなのが大嫌いなんだよ。今のインディーズってそんな感じだ。そういう『どうでもいい』っていう愚かな感覚がムカつく。それならやるなよ。辞めちまって何か違うことやれよって思うね」

こういった考えを持った彼らのやり方は勇敢で向こう見ずなものなのか、あるいは天才的なのか。なぜなら次なる彼らの動向は素晴らしくもありながら、セカンド・アルバム狂ったような内容だからだ。「全曲まったくタイプが違う17曲分の1時間15分の間、座って聴いてくれるかどうか試しているんだ」と彼は語る。「とても感情的な投資だね。芸術だよ。僕がやりたいことなんだ」

彼は一息ついてから、こう言った。「世界は……いや言うのは止めておこう」

何を言うのを止めたんだ?

「世界がこのアルバムを求めていると言おうとしたんだ。もういいや、言ってやるよ。世界はこのアルバムを求めている」

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