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来月10月にソロとしては16年ぶりの来日公演が決まっているリチャード・アシュクロフトだが、彼のキャリアを彩る最大の名曲といったら、この曲になるのだろう。“Bitter Sweet Symphony”はリリースから20年近くが経った今も「テラスハウス」をはじめ、ここ日本でも耳にすることの多い楽曲となっている。ザ・ローリング・ストーンズとの著作権争いでも有名なこの曲だが、この曲の様々なトピックを今回は振り返ってみよう。

1. この曲からリチャードが得た報酬はたったの1000ドル

ザ・ヴァーヴは、”Bitter Sweet Symphony” で、ザ・アンドリュー・オールダム・オーケストラによる”The Last Time”という楽曲にあったループ(あの荘厳な!)をサンプリングして使用している。同曲を制作する上で、この曲の著作隣接権(※録音したものについての権利)については、発売元であるデッカ・レコードから許可を得ていた。しかしながら、この”The Last Time”はそもそも、ザ・ローリング・ストーンズの楽曲のカヴァーであった。つまり、どちらのヴァージョンも、その著作者(作詞・作曲者)は、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズとなるが、その著作権(※作詞・作曲についての権利)の利用については、許諾を得ていなかったのだ。

“Bitter Sweet Symphony”が発表され、一躍話題となると、ザ・ローリング・ストーンズの元マネージャーであり、”The Last Time”の著作権を所有していたアブコ社のアラン・クラインは、「“The Last Time”を盗用した」としてザ・ヴァーヴを告訴する。さらに、既にこの曲がアルバム『アーバン・ヒムス』に収録されていること、そしてこのループなくしては、”Bitter Sweet Symphony”が成立しないことを知り、交渉を有利に進めることができることに気づいたアランは、”Bitter Sweet Symphony”の「作詞者」としてリチャードを認めるかわりに、リチャードがその作詞について持つべき著作権を、わずかな額でアブコ社に譲渡することを要求したのである。かくして、その要求を受け入れたリチャードは、”Bitter Sweet Symphony”のアイデアやほとんどのメロディを創作したにもかかわらず、その権利を譲渡した対価〜たった1000ドル(約10万円)をアブコ社から得たのみであり、逆にアブコ社は、そのあまりにも少額な投資で、大ヒット曲“Bitter Sweet Symphony”の著作権すべてを所有することになった。

2. ミック・ジャガーとキース・リチャーズのこの件に関するコメント

ミック・ジャガーは『SZ』誌のインタヴューでリチャード・アシュクロフトに何を伝えるかと訊かれた際に「彼のことは知らないんだよね、つまり個人的なレベルではね」と答えている。また『Q』誌が同曲のロイヤリティをすべて奪うことはやや厳しすぎると思うかと訊かれたキース・リチャーズは「俺にはもはやわからないね、完全に弁護士の領分だよ。まあ、ザ・ヴァーヴがもっと良い曲を書けるんだったら、金を持つことはできると思うけどね」と答えている。また同楽曲に対する権利を失った時、リチャード・アシュクロフトは『ローリング・ストーン』誌に対して皮肉交じりに「この曲はジャガー&リチャーズが過去20年間で書いた一番の曲だ」とコメントしている。

3. チャート・アクション&ランキング

“Bitter Sweet Symphony”は1997年にリリースされたが、この年の米『ローリング・ストーン』誌と英『NME』誌の両方でソング・オブ・ザ・イヤーの年間1位を獲得している。また、全英シングル・チャートでの最高位は2位となっていて、3ヶ月にわたってトップ40に残る形となった。アメリカでのシングル・チャートでの最高位は12位。なお、『アーバン・ヒムス』からのセカンド・シングル“Drugs Don’t Work”は全英シングル・チャートで悲願の1位を獲得している。

4. ミュージック・ビデオの反響

前項のアメリカ・チャートの数字を地味に感じた方もいるかもしれないが、御存知リチャード・アシュクロフトがすれ違う人を一切避けずに、ただひたすらにまっすぐ突き進むだけのビデオはアメリカのMTVでも何度もかけられることとなった。1998年のMTVビデオ・ミュージック・アウォーズでは“最優秀ビデオ賞”、“最優秀グループ・ビデオ賞”、 そして“最優秀オルタナティヴ・ビデオ賞”の3部門にノミネートされている。ちなみにグラミー賞でも“最優秀ロック・ソング賞”にノミネートされている

5. ミュージック・ビデオの余波

あまりにも反響を呼んだ“Bitter Sweet Symphony”のミュージック・ビデオは多くの子供も産み落とすことになった。つまりは数々のパロディ作品が生まれることになったのだ。なかでも、よく知られているのが、1998年FIFAワールド・カップのイギリスの非公式アンセムとしてリリースされたファット・レスの“Vindaloo”で、この曲はなんと本家と同じくUKチャートの2位を獲得してしまっている。

6. ノエルを初めとするあの人によるカヴァーも

“Bitter Sweet Symphony”は数多くのミュージシャンによってカヴァーされている。ノエル・ギャラガーがステージ上でこの曲を演奏したというのはあまりにも有名だが、UKのアーティストのみならず、アメリカでもビヨンセが“If I Were A Boy”で、マドンナの“Don’t Tell Me”で、リンプ・ビズキットは“Home Sweet Home”でこの曲のカヴァーを披露している。

7. この曲に惜しみない賛辞を送ったのはこの人

コールドプレイのクリス・マーティンも、全世界で同時に行われたチャリティー・コンサート「ライヴ8」のロンドン公演で、共に“Bitter Sweet Symphony”を演奏したリチャード・アシュクロフトを「世界で最高のシンガー」と称し、同曲についても「これまでに書かれた中で最高の曲」と最大の敬意を払っている。

ライヴ8のリハーサルの映像はこちらから。

8. ミュージック・ビデオとテロの関連性

ちなみにリチャードはこの曲のビデオと9・11の相似性についても語ったことがある。「“Bitter Sweet Symphony”の暴力的なシーン(乳母車を突き飛ばす等)は、俺自身が感じてた”近代社会の暴力化”をシンボライズするものだったんだ。他社の不幸に関する無関心、そういう近代人の他者に対する冷酷さ……だから、あのビデオでシンボライズされた暴力と『9.11』における暴力とには、実に強い関連性があったと言っていいだろう。暴力ってのは、たとえそれがどんな状況に置かれた人間だろうと、正当化することなんてできない。暴力はあくまで暴力なんだ」。ちなみに9月11日はリチャードの誕生日だったりもする。

9. ソロでも“Bitter Sweet Symphony”を演奏する理由

また、ソロのライヴでザ・ヴァーヴの曲をやる理由にも触れている。「“Bitter Sweet Symphony”と“Lucky Man”と“The Drugs Don’t Work”は、いつになってもやる必要のある曲なんだ。あれは俺の生み出した子供たちだから、偉大な曲というのは、俺がどんなに年を取っても、変わらず偉大であり続けるものだと思う。たとえ俺が40歳になっても“Lucky Man”の歌詞にはやはり感情移入できるだろうね。それは常に新しい生命を曲に吹き込むことができるからなんだ。『アーバン・ヒムス』は俺の最初のソロ・アルバムになる予定だったんだ。だから、あのアルバムに入ってる曲を忘れることは俺にはとてもできないんだよ」

10. そして、やっぱりこの人もこの曲への愛が惜しみない

こちらも有名な話だが、リチャード・アシュクロフトの大の友人であるリアム・ギャラガーは最初に“Bitter Sweet Symphony”を聴いた時に、この曲を30回連続で聴いたと言われている。

リチャード・アシュクロフトの最新インタヴューはこちらから。

https://nme-jp.com/feature/26757/

5月に行われたUK公演のセットリストはこちらから。

https://nme-jp.com/news/19709/

来日公演の詳細は以下の通り。

NME JAPAN presents リチャード・アシュクロフト ジャパン・ツアー2016

大阪
10月4日(火) ZEPP NAMBA
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500、2F指定席¥9,500(税込・1ドリンク代別)

東京
10月6日(木) ZEPP TOKYO
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500(税込・1ドリンク代別)、2F指定席¥9,500(※SOLD OUT)

10月7日(金) ZEPP TOKYO
OPEN 18:00/START 19:00
TICKET:1Fスタンディング¥8,500(税込・1ドリンク代別)、2F指定席¥9,500(※SOLD OUT)

公演の公式サイトはこちらから。

http://ashcroft-japantour.com

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